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“仲間力“で勝つ。TISが掲げる次世代SIerの新たな成功方程式
2024.08.20 NewsPicks Brand Design
世の中の不確実性が高まり、事業環境の激変に適応するように、あらゆる企業が変革を始めた。
SI(システム・インテグレーション)業務を受託するSIer企業も同様に、システム開発のみを行う従来型のSIビジネスからの脱却が求められている。
グループ会社数59、グループ従業員数は約2万2千人と、日本でトップクラスの独立系SIerであるTIS インテックグループ。2024年3月期の売上高5,490億円、営業利益645億円と増収増益。5月には新中期経営計画を発表し、トップランナーとして大きく舵を切った。
祖業とも言える中心事業のSIビジネスから、コンサルティングを融合させた総合ITソリューションカンパニーへの拡大を実現させている。業績好調のさなかで、いったいなぜ変革を起こさなければならなかったのか。
TIS株式会社 代表取締役社長 岡本安史氏を迎え、日本のSIerの現状から、今後、目指すべき新しいSIer像までを深掘る。
SI企業が今、迫られている選択の分かれ道
現状のSIビジネスにどのような課題がありますか?
岡本
従来の受託開発型SIビジネスには、いくつかの問題があります。一つは、技術者の人数に依存する「労働集約型モデル」である点です。
労働集約型で事業を拡大させるには、規模に応じて技術者を増やしていく必要があるわけですが、特に昨今は技術者が慢性的に不足していて、どの企業も悩んでいます。
その中でSIの事業が収益を伸ばしていくためには、生成AIのようなソリューションを活用し、人数に依存しないビジネスへと方向転換していく必要があります。
もう一つは、「考え方の変化」の問題です。30年ほど前であれば、お客様がシステムを導入するのに3年かけて大きなシステムを作っても、競争力を持つことができました。ところが世の中がどんどん進化して、ここ最近15年ほどは、その冗長なスピード感ではお客様も市場で戦えなくなってきました。
それと同時に出てきたのが、さまざまなSaaS型サービスやパッケージ製品です。そもそも小規模のお客様であれば大規模のシステム開発は不要で、パッケージ製品の導入のみで済みます。
その考え方が徐々に中堅から大手企業へも波及していき、時代からの要請もあって、ますますスピードが重視されるようになりました。「やってみてダメなら違うアプローチに変えて、上手くはまれば成長させていく」というアジャイル型の考え方が浸透しつつあります。
試したり乗り換えたりするのが、以前よりも当たり前になった、と。
岡本
そうすると、SIerもパルテノン神殿のような、重厚長大な100点満点の製品ではなく、リリース時は8割程度に機能を絞り込んだ状態でマーケットに提供するほうが合理的です。いざスタートしてみたら残りの2割分は不要だった、との判断になることもありますから。
このような事情から、私たちは最小機能でパッケージ化してシステムが提供できる方法をもっと進める必要があります。
つまり、システム開発の考え方そのものが世の中的に変わってきたのです。この状況はどのSIerにとっても、ものすごく大きな問題です。まさに今、どちらを選ぶかで未来が大きく変わる分岐点に立っているのではないでしょうか。
とはいえ、これまで受託で何十年も経営してきた企業が、いきなり自社サービスを作り始めるのは難しそうです。
岡本
確かに、受託・受注生産と自社サービス開発とでは、必要なアーキテクチャ(設計思想・構造)がぜんぜん違う、という難しさがまずあります。しかしそれでも、これまで培った技術力を使ってサービスを作ることはできるんです。でもいざ、「何を作るの?」を考えなければならないとなると、とたんに難しくなる。
これまでお客様から要件を受動的にお聞きしてモノを作ってきた受託企業は、自分たちで能動的に考える力があまり培われてきていません。
そのため、発想と考え方を従来とは真逆に転換し、会社の事業モデルと考え方、カルチャーを同時に変革していかなければならない難しさがあります。
グループ59社からなるITの総合力
50年の歴史ある企業グループですから、変革が一朝一夕で済まないことは想像に難くありません。
岡本
まず簡単に当社グループの歴史から触れておくと、TISは1971年に東洋情報システムという社名から始まり、事務処理系のシステム開発・運用で成長してきました。
バブル崩壊の影響で90年代に初めて赤字転落。再建のために当時の社長が、従業員一人ひとりのタスクの見える化を進めたおかげで、風通しのいい社風になりました。その仕組みは現在も引き継がれています。
のちに社名変更してTISとなり、インテックホールディングスと統合、共同持株会社ITホールディングスを設立したのが2008年。2016年にはTISとITホールディングスが合併して、TISが事業持株会社になりました。
その2016年は、とても大きな転換点だったと思います。これを機に巨大グループとなり、それぞれ独立的に動いていた企業群が集まることに。グループ従業員数約2万2千人、グループ企業は海外事業を含め60社近くもあります。
この間、約50年。M&Aや出資で自社に足りない部分の事業ポートフォリオを埋め、いい部分を学びながらお互いのカルチャーを融合させてきました。現在もその方法を採用しています。グループ全体の中ではTISが中心になりつつ、最近はグループ企業同士での協業の動きがだいぶ出てきました。
決済と会計、ERP(企業資源計画)の領域で強みを持つTIS、ネットワークシステムを全国規模に展開しているインテック、ほかにも製造業に強いクオリカとAJSなどがグループ企業として名を連ねています。これらの強みをどうハンドルして、どう総合力で成長させていくかが今後の重要な判断になります。
その際に、考え方とカルチャーを変えていくのが一番難しそうです。どうやって変革していくのでしょうか?
岡本
私が社員の皆にまず伝えているのは、「フロントラインの強化」です。
フロントラインとはお客様との接点のことです。加えて、大きく定義すれば、投資家や3,000社以上のパートナー企業、社員とその家族を含めたステークホルダーとの接点も含まれます。フロントライン=接点を強化するとは、「もっとお客様に向き合おう」という、アプローチの仕方や在り方、考え方を示したものです。
自ら発想する力を培っていくためにも、受け身ではなく自分たちで考えて前に進めよう、能動的に動こう、というメッセージです。技術者だけでなく、コーポレートのスタッフを含む全従業員に伝えています。
全従業員が能動的に動ける人になってほしい、と。
岡本
また、TISでは23年4月に人事評価制度を変えました。会社がやってほしいこと(Must)だけでなく、社員一人ひとりが会社でやりたいこと(Will)、できること(Can)にも取り組んでもらうため、能動的に動くインセンティブが働くような仕組みに変更したのです。
本人が何をしたいか、どう動いていきたいかを評価項目で重視したことで、社員にマインドの変革を促します。
仕事に能動的であるというのは、しんどいですけど、楽しい。働きがい調査の結果をみても、能動性の高い部門ほど満足度も高く数値が出て、正比例の関係にあるのは明らかです。実際に、これまではみられなかった自発的な連携と新しい発想がここ3年の間に出始めています。
もちろん、新しい考え方とカルチャー、マインドは、一朝一夕には浸透しません。漢方薬のように徐々に効いてくるのだと思います。
選択肢を提供できるムーバーであれ
TISインテックグループの総合力を、今後はどう事業成長に活かしていくのでしょうか?
岡本
私たちが総合力を発揮して生きていく際の指針となるのが、「ムーバー(Mover)」という言葉です。ムーバーとは、世の中を新しい世界へと動かしていくモノやコト、システムを生み出す人を指しています。
TISインテックグループ基本理念の中で、ビジョン「ムーバーとして、未来の景色に鮮やかな彩りを」を掲げています。これは、私たちの持っている能力やソリューション、サービス、技術を通じて、お客様に選択肢をご提供できるグループになることを目指す、という意味。
要するに、私たちは選択肢の多い社会を作っていく人たちで在りたいと宣言しているのです。選択肢があるから社会は面白いし、発展していく。そんな社会を作っていくTISインテックグループのメンバーが、ムーバーです。
総合力を事業成長に活かすには、皆が選択肢を提供できるムーバーである必要がある、と。
岡本
ただ一方で、我々には総合力があると言っても、すべてを自前で揃えるのは難しい。また、ノウハウがゼロのまったく知らない分野で能動化・自発化を進めるのも難しいです。
しかし、決済や会計、経営管理のような我々が土地勘のある領域から着手していくと、かなり成功する可能性は高いと考えています。そうやって、総合ITソリューションカンパニーを目指します。
いずれにしても、そこでやはり大事なのが仲間力なんです。パートナー企業さんやお客様が「TISインテックグループと一緒に共創したい」と思える会社じゃないとダメじゃないですか。
そのために総合力が必要で、それを実現するのが「人間力」と「仲間力」です。だからもう、IT企業なのにめちゃくちゃ人間くさい会社だと自分でも思います。
共創で重要な「仲間力」の身につけ方
顧客と共創する上でもっとも重要なことは、「人間力」と「仲間力」?
岡本
技術において、当社グループに誇れる強みがあること。当然ながら、これがまず一番大事です。例えばそれは、繰り返しになりますが、国内トップシェアを誇る決済領域やERPのノウハウ、会計の知識、データサイエンティストによる分析力などです。
しかしそれだけでは、お客様から選んでいただけません。ここで大事になるのが、「仲間力」です。もう一度、この人と仕事を一緒にしたいと、TISインテックグループの社員は楽しくて面白いねと、言ってもらえるかどうか。お互いに人間力があることで、仲間力につながります。
人間的な魅力があり、期待を裏切らず、真面目に取り組んでくれる。気軽に相談し合える関係を築いてくれる。そんな仲間力が自社の強みとセットになって、いいものを一緒に生み出せるようになる。これが目指すべき共創の在りたい姿です。
もちろん、利益を出すことは重要です。だけど、契約関係とお金儲けだけのつながりになってしまうと、たとえ嫌な人でもメリットがあるから付き合うような関係に似ていて、長続きしないでしょう。
人としても選ばれる必要があるんですね。
岡本
仲間力・人間力というのは人間的な面白み、魅力、深さが大事になります。そのために趣味を深めるもよし、新しい思想を学ぶもよし。
私の場合は、ゴルフをプレーしたり、日本庭園・仏教に触れることが好きでして、そういった分野でも見識を深めているといろんなものごとを構造的に捉えられたり、お客様のお考えに対して深く傾聴できるようになったりする。それが全部自分の引き出しになります。
何に興味をお持ちなのかお話していくと、お話している相手の方の考え方やものの見方を伺い知るヒントが得られます。すると仲良くなっていく。次第に、自分やグループの持つ力を応用して、新しい提案ができる関係になる。
単なる仲良しではなく、こちらに核となる強みがあって初めて、お困りごとの相談を受け、仕事を頼んでもらえます。
人間力から生まれる仲間力と、ビジネスとしての強み、技術力。共創やご支援をする上でこの組み合わせがすごく大事で、どちらか一方ではダメなんです。
絵に描いた餅で終わらない、無駄なお金を使わせないコンサル力
顧客との共創や支援で重視する、ビジネス上の戦略はありますか?
岡本
コンサルティングビジネスを伸ばして、お客様の上流開発から運用まで一気通貫でお任せいただく状態をとにかく早く作りたいと考えています。国内グループでは直近の3年間でコンサルタントの部隊を500名まで拡大しました。次の中期経営計画では700名が目標です。
ただ、コンサルティングビジネス「だけ」をとらえて予算の見積もりをしまうと、開発現場の意図と乖離してしまうリスクがあるので難しいんです。
そのため当社では、予算策定やアカウントプランとAIやデータサイエンスなどの開発・運用が、必ず連動するような組織の仕組みにしてあります。
コンサルタント・営業と、開発・運用メンバーの意識の乖離はどの現場も起こりがちです。
岡本
仕組みを整えた成果もあり、この3年でお客様からの声もだいぶ変わってきて、最近はご好評をいただけるようになりました。お客様のお困りごと、経営課題の解決策を絵に描いた餅で終わらせず、一緒に最後まで伴走して解決していける、価値のあるコンサル部隊を目指しています。
場合によっては、「お客様の状況と課題を考えれば、システムを変える必要はありません」という提案もアリです。無駄なものを作って無駄なお金を使わせてしまうのは良くない。意味あるお金の用途を考え、開発につないでいくのが当社グループのコンサルタントの役割です。
これを継続することで、お客様とも長いお付き合いができるし、信頼感も深まる。私が長年やりたかったことが社長になってようやくできるようになりました。しかしまだまだ不十分で、20年先も続ける必要があると思っています。
マーケットと直接向き合うのが「未来のSIer像」
5月にグループビジョン2032を発表しました。どのような点を重視していますか?
岡本
いくつか重点取り組みに掲げている戦略ドメインがあります。従来型のSIビジネスに加えて、まずはストラテジックパートナーシップビジネス(SPB)が挙げられます。お客様の事業成長を戦略パートナーとして様々なリソースをご提供しながらご支援していく。それがSPBですね。
IT&ビジネスオファリングサービス(IOS)は市場に先回りしたITソリューション・サービスの創出・提供を行う先行投資型ビジネスです。SPBと同じぐらい重要視していて、大きく成長させていきます。
より、能動型のITソリューションへ変革を推し進めるんですね。
岡本
能動的にシステムを作り、お客様へご提供することは当然ながら大事なのですが、一方で、自分たちの事業としてマーケットへ直接サービスを提供していくことも大事になっていきます。
特に近年は、4つの社会課題 「金融包摂」「健康問題」「都市への集中・地方の衰退」「低・脱炭素化」に注力しています。
また、グループ全体で500程のサービスがすでにあり、AIやXR、Web3などの先端技術も活用して、一気通貫で社会の役に立てることを目指しています。
海外展開に注力。最後も仲間力
海外展開はどのような戦略で進めるのでしょうか?
岡本
日本国内だけでビジネスを進めていくのは難しくなりつつありますので、人口が増えている東南アジアに注力していきます。生産年齢人口が多い人口ボーナス期にある国は、経済発展とともに必ずITが発展していきます。そのマーケットの動きを見据えて展開していく戦略です。
また、当社は独立系SIerなので、自由に展開できる点も強みです。現地のSIerを一社ずつ厳選の上でM&Aと出資を行い、お互いに理解し合えることを確認しながら経営者同士でかなり密な関係を築きます。そのため絆は深い。ここもまた人間力です。
あとは、グループの風土の醸成を推し進めたいです。今日も会社に行って仕事がしたいと思える風土づくり。いろんな人たちと腹を割りながら、皆が素直に話せる企業体にしていく。そのことが、風通しのいいコミュニケーションを生みだす。甘えの関係ではなく、苦しい中でも前に進んでいくための議論を共有できる組織体にしていく。
ITビジネスと言っても、動かしているのは人間で、人が人に提供しています。お互いに高め合う仲間力は、どこまでいっても大事ですよ。
(制作:NewsPicks Brand Design 企画・編集:花岡郁 執筆:山岸裕一 撮影:小池大介 デザイン:小谷玖実)
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