TIS INTEC Group MAGAZINE

ITで、ロボット共創社会の願い叶えよう。ITで、ロボット共創社会の願い叶えよう。

CROSS TALK #04林 摩梨花 × 中村 知人

ロボティクスで実現したい、人間とロボットの未来。

さまざまな産業において、元々慢性的な人手不足の状態にあった中、コロナ禍の影響で接触を伴う人流が抑制され、ロボットを導入する動機が高まりました。ロボットが進化していった先では、私たちの生活にいったいどのようなインパクトを与えるのでしょうか。
本記事では株式会社キビテク 代表取締役CEO林摩梨花さんをお招きし、当社ビジネスイノベーションユニット ジェネラルマネージャー AI&ロボティクスサービス部長 中村知人と「ロボティクスで実現したい未来」について対談を行いました。

「ロボットには生き物らしさ、人間らしさがある」

テクノロジーの進歩でロボットは身近な存在になりつつありますが、そもそもお二人はロボットをどのように定義づけていますか。

中村さん(以下、敬称略):ロボットの究極形態は最後、人間だと思います。社会の中で一緒に働く仲間の1つになるイメージで、アンドロイドとかヒューマノイドに近いかもしれません。

「人間を代替する」という意味ではなく、ロボットが一緒に働いてくれることで、世の中が効率化されたり、問題を一緒に考えてくれたりするような存在ですね。災害現場など危険度が高く、人間だけでは困難な場所での作業を行ってくれるとか。いずれにしても人間により近づいていくのがロボットだと考えています。

林さん(以下、敬称略):定義的にはロボットは「人間の役に立つ機械」のことですが、大学時代から人型ロボットの研究を行ってきた私の狭い定義では、ロボットの価値は「生き物らしさや人間らしさがある、人間の役に立つ道具」ですね。

「人間が使う」というよりも「付き合う」といった対人的な感情が生まれるのがロボットで、その関係性から与えられる価値は、突き詰めると「心が幸せになる」ことだと考えています。

ではロボット工学と訳される「ロボティクス」とは何でしょうか。

林:ロボティクスの定義は「ロボットをどう作って、ロボットの身体をどう動かすか。そのための計算をどう行うか」を研究・追求する学問のことです。

必要な技術は、機械制御、回路設計、電気信号処理、パターン認識……など多くのメカトロニクス(機械工学と電子工学)分野にまたがり、それぞれが1つの領域として成立するほど範囲は広大です。

先ほどの「人間らしさ」みたいな話はさらに大きな括りに入るため、ロボティクスには含まれていません。ただしロボット学会などでは「人間との心理的な関係性」が研究テーマに含まれる場合もあります。

「日本ではサービスロボットの普及台数も技術進化もまだまだ」

ロボット活用にはどのようなビジネスニーズがあったのでしょうか。

※対談はマスク着用で実施し、撮影時のみマスクを外しています。

中村:私たちTISはIT技術に思い入れのある企業です。2015〜16年頃はGoogle傘下の企業が開発したAI「AlphaGo(アルファ碁)」が囲碁のトップ棋士に勝利して話題になりました。その頃に、AI技術をビジネスに取り込むべくAI事業部を立ち上げ、その活用先として選んだ1つがロボット領域でした。何か特定の社会課題や背景があったというよりも、楽しそうだ、次に来る面白そうなテクノロジーだ、ビジネスとして可能性が広がりそうだといった理由でロボット分野を選んだのです。

「AIとロボット」と聞くと、ハードウェアへ進むことを想像するかもしれません。しかし私たちは総合ITサービス企業という立場から、ソフトウェアを作ってロボットを管理する方向へ進化することを考えました。当社のグループビジョンとしても、システムを売るだけの会社から、サービスを提供する会社へ変革しようとしています。その背景もあって、ロボットの総合管理プラットフォームを提供することになりました。

ロボットにも種類がいくつかあって、例えば自動車工場の中で稼働しているような産業用ロボットもその1つです。一方、私たちが対象としているのは「サービスロボット」といって、当社の入居するオフィスビル内で受付をしたり、お客様へ出すお水のペットボトルを運搬したりしているロボットです。サービスロボットは、普及台数も技術進化もまだまだ発展の余地があり、後発の私たちが参入を決めた理由でもあります。

林:中村さんがおっしゃる通り、産業用ロボットや物流施設内で自走するロボットの導入は進んでいる一方、ビル内の警備ロボットや、飲食店内の配膳ロボット、清掃ロボットなどのサービスロボットはまだまだこれからが普及期です。その点では中国のほうが数年は進んでいると感じています。

中村:実際、中国の現地法人では当社のロボット・プラットフォームを活用し、サービス化へ動き出しており、新しいロボットも次々と誕生していて、日本に輸入されるよりも先に複数社のサービスがAPI連携して運用されています。

「ロボットと切り離せないAIの進化」

ロボットとAIが活用されている身近な事例を教えてください。

林:もっとも身近なAIの活用事例だと、画像認証AIと連動させた産業用ロボットや、人間と交流するペットロボット、周囲の状況を判断しながら周回する警備ロボットなどにAIが使われています。

中村:当社のR&D(研究開発)の最近の事例では、人の動きのデータを取り込んで、AIを使ってロボットをどう制御するかを研究しています。
具体的には、ビルなどで稼働するロボットは事前に取得した施設のマップ情報しか保持しておらず、ロボットが通行する上で障害となる人や設置物については、自己位置推定の機能とセンサーによる回避が必要です。そこで、TISではAIを活用し、人流情報や障害物をリアルタイムで検知し、俯瞰的なロボット制御の観点から、施設内でスムーズにロボットを運行させようとする実現性の検証を進めています。

次に屋外へ目を向けると、TISは海外の自動運転や自動配送ロボットのスタートアップと協業しており、AI活用による移動ルートの最適化も視野に入れています。これにより将来的にイベントでの誘導による回遊性向上や、災害が発生した時の避難誘導にも役立てると私たちは考えています。

「ロボットに親切な設計が、ロボット活用の道を広げる」

ロボットは具体的にどのように事業へ活用されていますか。

中村:当社の『DX on RoboticBase®』 は、ロボティクス関連サービスを必要とする日本の企業を支援し、企業の組織・業務・プロセス、さらには人の生活そのものに変革を起こす包括的サービスの名称です。このサービスは「複数のロボットが同一建物内で動く際には『同一の地図上で位置情報を共有』していたほうがスムーズである」という発想から始まっています。
ロボットがそれぞれ自律自走するだけではなく、建物に取り付けられたカメラやセンサーなどのIoTデバイスから得られる環境情報を人間が把握しながら管理する。マルチプラットフォーム上で相互連携して情報を共有することで、複数のロボットが協働できるようになる点が大きなメリットです。

林:管理プラットフォームを持つとたくさんの情報が集まってきますが、その情報を活用するプランはありますか?

中村:今はまだ情報を集めている段階ですが、公共空間や各家庭で稼働する多種多様なサービスロボットの導入が進んださらに先は、ロボットがサポートしている業務全体のさらなる効率化やミスの撲滅、新しい価値創造などの「判断業務」の領域に入っていくことが予想されます。
例えば、ビルで稼働しているロボットですが、運用するにあたりエレベータでのフロア間の縦移動が必須の条件になります。しかし、フラッパーゲートや手動ドア等の障害があり、エレベータ連携ができない既存ビルが多く存在しています。そのため、新築のビルにおいては、ロボットの運用を前提とした設計を行う事例が、今後増えていくであろうと予測しています。その上で、「ロボットと人との同乗」や「ロボットの複数台乗車」等、現時点では実現できていない課題に対応することも求められます。ビルにおけるロボットのバリアフリー化に並行して、運用効率を向上し、人と同等にスムーズに動作させることが、今後のサービスロボットの普及のために必須となってくるでしょう。

林:設備側を変えてロボットを補完できると、ロボットにできることが広がりますね。ハードウェア側を変えることはコストがかかって大変ですから。

中村:そうですね。ただ、設備側を変える際も、そもそもの設計をロボットありきにする必要が出てきてそれなりに大変です。例えば、ロボットの動きに配慮した廊下の幅や、ロボットが仕事を終えた後に充電ステーションとして戻る場所の確保、管理する人の控室などを考える必要があります。
2022年9月にプレオープンした「東京ミッドタウン八重洲」はビル設計の最初から、ロボットを管理する人の専用部屋が用意されています。ほかにも、デリバリー業者の配達員の方が持ってきてくれた商品をデリバリーロボットが受取り、自らエレベータに乗って、注文者のいるフロアまで配達してくれます。こうしたロボットに親切な設計が、ビル開発の段階から組み込まれています。

ビルでのロボット活用イメージ

「何が大切かをロボットは正しく理解できない」

ロボット事業を推進するにあたり、どのような課題があるのでしょうか。

中村:例えば透明なガラスの仕切りや、壁に貼られた鏡をロボットは認識出来ずにぶつかってしまうことがあります。地図データとロボットがセンサーから得た情報との間に誤差があると立ち止まってしまったり、課題は少なからずあります。

林:ロボットにできることは本当に少ないんです。人間であれば、そもそもガラスだと判断できるし、経験的にガラスで区切られた部屋が存在するという文脈情報も使って通路の形状を無意識のうちに判断しています。そういった「経験則」を使うことは、人間にできてロボットにはできない最たることではないでしょうか。人間の子どもですら簡単にできることでも、ロボットから見たら困難なことはたくさんあります。
専門用語で「フレーム問題」と言いますが、何が大切で何が大切ではないかをロボットは正しく理解できません。これは昔からロボットとAIが本質的に抱えている問題で、この先数十年経っても解けないと私は考えています。
だったらそこを人間が効率よくアシストすればいいのではないかと考えて弊社が開発したのが、AI自律ロボットを人間が遠隔で制御するシステム『HATS(ハッツ)』です。例えば配膳ロボットが配膳途中で止まってしまったときに、人間が遠隔操作で復旧させてあげるのです。

ゆくゆくは、人間が「要点」を教えてあげることで、AIがどんどん賢くなっていく世界観を描いています。例えば、長く続く平面を「廊下です」「その境界線には壁があります」などと人間がちょっとずつ教えていく。AIは、何が要点なのかを判断できないものの、膨大な「要点データ」を集めることはできます。Googleがインターネット上の膨大なデータを集めてAIに活用しているのと同じように、ロボットから集められる膨大なデータもAIに活用できます。
どんどん学習していけば「進路を塞いでいるイスがあるが、多少ぶつけてどかしても問題ない」「中に水の入った花瓶は倒すと溢れるので、それが乗っているテーブルには絶対に触れてはいけない」などの判断が付くようになるのです。こうしてロボットのAIが賢くなれば、やがてフレーム問題を解決できると考えています。

中村:複数のロボットで集合知が共有されていくと、単体ロボットそれぞれが学習しなくても済むわけですね。

「人とロボットの共創社会」

ロボットとめざすこれからの未来図と、今後どのような社会課題に挑んでいきたいかを教えてください。

林:経済の自動化が進み、人間は働かなくても生産活動ができる世の中を目指してロボット開発を推進していきます。
もう1つは、ロボットをアシストする遠隔オペレーターの仕事を作っていきたいです。ロボットには難しいけど、人間には簡単に判断できることを担ってもらいます。在宅勤務を余儀なくされている方や、新興国の低所得の方に就労機会を提供することで、所得格差の低減に少しでも貢献できればと思います。

中村:ロボットは「使うではなくて付き合う」、一緒に働くものだと考えています。人とロボットの協働を超え、完全自動化やロボットによる自己判断を実現する「共創社会」を築いていくにはまだまだ超えなければいけない壁がたくさんあります。その一助として『DX on RoboticBase®』のようなプラットフォームを提供することで、ロボットを導入したい人たちのハードルが下がることに価値貢献していきたいと考えています。



TISが考える「人とロボットの共働・共生実現に向けたロードマップ」

※本対談は2022年9月27日に行われた内容です。

林 摩梨花Marika Hayashi

株式会社キビテク 代表取締役CEO
東京大学情報システム工学研究室(JSK)で学際情報学博士課程修了。三菱電機を経て2011年に株式会社キビテク創業。情報処理推進機構(IPA)未踏スーパークリエータ。大学ロボコン時代、IPA未踏事業期間、創業後の全期間を通して、開発テーマ立案や資金集め等に従事。出産を機に社会課題低減のためのロボット技術活用を軸とした経営方針で運営に取り組む。

中村 知人Kazuto Nakamura

TIS株式会社 ビジネスイノベーションユニット ジェネラルマネージャー
兼ビジネスイノベーション事業推進部長
兼AI&ロボティクスサービス部長
2000年入社。経営管理・会計領域を中心に、BPRを目的としたコンサルティングプロジェクトに従事し、ERP導入を多数経験。その後、IT戦略コンサルティング部の責任者を務め、ビジネスイノベーションユニットへの集約にともないジェネラルマネージャーに就任。