TIS INTEC Group MAGAZINE

ITで、 web3が創造する新たな世界 の願い叶えよう。ITで、web3が創造する新たな世界の願い叶えよう。

CROSS TALK #08齊藤 達哉 × 中村 健

web3で新たな価値を生み出し、より自由な世界に。

具体的なイメージが湧きづらい「web3」とはいったい何なのか。ブロックチェーンやNFTといった最新のデジタル技術と深い関係があるようですが、いったいどんな社会課題を解決し、世の中にどのような影響をもたらすのでしょうか。
本記事ではProgmat,Inc.代表の齊藤達哉さんをお招きし、TIS株式会社DX企画ユニット ジェネラルマネージャー・中村健と「web3×ITで実現したい未来」について対談を行いました。

「web3で何ができるのかを理解する必要はない」

そもそもweb3の概念についてまだ一般的には理解度が高くない印象ですが、web3がどんなものなのか教えてください。

中村さん(以下、敬称略):人それぞれ使い方の定義は異なりますが、web3は今のインターネットの仕組みweb2.0のアップグレード版です。自律分散的、相互的、非中央集権的な特徴を持っていて、要するにより自由に情報や価値のやり取りを行えるのがweb3です。

また、現在は「GAFAM」のようなビッグテック企業が中央集権的な仕組みで世界のプラットフォームを席巻していますが、“それらのプラットフォームに頼らなくても、相互に情報のやり取りを出来る仕組みを作ろう”というムーブメントを指すこともあります。

齊藤さん(以下、敬称略):一般に“web3”と呼ばれる仕組みの中核はブロックチェーン技術で、取引データの履歴であるブロックをチェーン(鎖)状につないでいて、それ自体がデータベースの役割を果たしています。このデータベースは中央管理者を仲介せずとも、ユーザー同士だけで管理・送受信ができます。参加者みんなが分散して管理し、かつ暗号化もされているので、データの改ざんは難しいとされています。もし仮に誰かが改ざんをしても必ずその痕跡が記録として残るので、バレる仕組みになっているのです。

中村:これらの特徴から、ブロックチェーン技術はデジタルデータに唯一無二の「一点もの」の価値を与えることができます。また、データのやりとりの履歴をすべて残せる特徴を持ち合わせていて、ブロックチェーン技術を用いると、デジタルデータを「トークン化」することができます。

一般的にトークンとは、ブロックチェーン上で動作する暗号資産を指しますが、使われる文脈によってさまざまな意味があります。現実世界の権利証やチケット、手形、株式、証券などに例えられることもしばしばです。ちなみにNFT(非代替性トークン)は、動画やイラスト、音楽などのデジタルデータが、唯一無二の価値を持っているオリジナルデータであると証明し、所有・保有を示す、トークンの一種です。

齊藤:トークンを言い換えると、ブロックチェーンという分散型のデータベース上に記録された、「固有の価値を持つデータ記録」となります。あらゆるデジタルデータの価値はトークン化できます。トークン化する最大のメリットは、価値が小口化され、流動性が高まることです。

流動性について説明すると、例えば今、私が持っているペットボトル飲料水の中身は単なる水ですが、仮に私がこのペットボトルのデジタル権利証を作ってトークン化し、販売したとします。すると、許可された参加者であれば誰でもこのコミュニティにアクセスでき、権利の売買に参加できるようになります。流動性が高いので、販売先は日本国内に限りません。海外にこの水を欲しがっている人がいたとすれば、もしかしたら100万円の価格で買ってくれるかもしれない。価値をトークン化すると、そんなことが可能になります。しかし現実世界で同じことをやろうとすると、物理的にペットボトルを引き渡してもらいにいくか、二重譲渡が発生しないように、公証役場で確定印を押印された権利証を発行するために本人確認して書面を交わし……ということをしなければなりません。現実での価値は、そのままでは流動性がとても低いとお分かりいただけるでしょう。

要するに、供給できる資産を持っている人にとってはより高く売れる可能性が生まれ、手に入れたい人にとってはより手に入れ易くなる可能性が増える状態が「流動性が高まる」ということです。流動性が高まれば誰もがハッピーになります。トークンがどんな種類のものであれ、本質的にはブロックチェーン上のデータベースの記録の価値が何と紐づいているのか、つまり価値の源泉がどこにあるのかの違いでしかありません。

生活者にとってメリットが大きいようですが、世の中へのweb3の広がりはどのような状況でしょうか?

中村:そもそもweb3に関する知識がまだまだ広がっていません。多くの人にとってweb3は、理解の及ばない恐れの対象になってしまっていますね。「暴落したビットコインみたいなやつでしょ?」とか「突然消えたり盗まれちゃったりするんでしょう?」――まだこういった認識が多いですね。またそれとは逆に、内容を理解しないまま言葉に飛びついて、「上司から、とにかくweb3で何かをやって欲しいと言われた。一体どうしたらいいんだろう?」というケースもよく見かけます。これが問題です。

齊藤:そうですね。絶対に失敗するのが、「web3で何かやりたいんだけど」「ブロックチェーンを何かに使いたいんだけど」と手段と目的を履き違えてしまうパターンです。このままではゴールがよく分かりません。そうではなくて、あくまで課題やニーズが起点になるべきです。その意味では、そもそも「web3で何ができるのか」を理解していただく必要もないのかもしれません。お客様には、事業で困っていることを正確に私たちに伝えてほしいのです。

例えば「もっと送金を早く便利にしたい」というニーズがあって、しかも既存の銀行の決済システムではどうしても時間がかかってしまう、と。そこで初めて、「法定通貨と同じ価格で固定されているトークンである、ステーブルコインという仕組みなら実現できますよ」と課題解決の提案ができるようになります。ですから「web3で何かをしたい」ではなく、ニーズに対する課題解決の手段として、最適なデジタル技術を選ぶ、という順番であるべきです。

中村:おっしゃる通り、まずはニーズありきですね。課題解決の用途として、ブロックチェーン技術を使うのが最適解なのであれば使う。その一方で、必ずしも世界中のデジタルがブロックチェーン技術に置き換えられるわけではないんですよね。有効な場合は使えばいいし、既存の仕組みで十分なこともよくあります。web3はあくまで選択肢の一つでしかありません。

齊藤:完全に同意します。そのため私は、web3やブロックチェーンという言葉を使っているうちは普及しないと考えていますし、web3という言葉を使いません。利用者がスマートフォンで送金や決済を行う際にアプリを使うように、アプリを通してしかその便利さを想起できないのではないでしょうか。

私たちのようなソリューションを提供する企業がお客様と会話を行うときは、web3やブロックチェーンなどの抽象的な概念に逃げずに、アプリの便利さとして個別具体的なメリットを実現しないと伝わらない。決済ならステーブルコイン用の、不動産売買なら、証券型トークン用のアプリを使うことで初めて、自分の中に活用事例の選択肢が増える。裏で動いているのが何の技術なのか、まではあまり気にしませんよね。インターネットバンキングを利用している企業でも、どの機能が使えるのかすべてを把握しているわけではないことと似ています。

最終的には課題が解決できればいいので、解決手段が必ずしもweb3にあるわけではないんです。どんな技術で何を解決できるのか。その事例が広まると、認知も浸透して普及していくことでしょう。

「ブロックチェーン技術を活用することで、商品が本物だと証明できる」

お二人の携わっている事業でweb3の技術を活用している事例を教えてください。

齊藤:Progmat Coinシステムは、米ドルや日本円等の法定通貨に価値が固定されているステーブルコインを発行・管理するためのシステムです。相手の送り先のアドレスにドルでも円でも自由にお金を送れるソリューションを提供します。どの国の人が相手でも、相手先の氏名や住所が分からなくても、アドレスさえ分かればお金の価値を届けることができます。しかもこのサービスには誰でもアクセスが可能です。これは、パブリックブロックチェーンと呼ばれる、誰でも接続可能な台帳技術を活用するから実現できることです。

ブロックチェーンや法定通貨と紐づいている法的なスキームであるかや、信託型か預金型かなどの裏側の話よりも、「決済が自動化された基盤に、誰でもアクセスできる」ことが重要です。銀行振込で同じことをやろうとしても、既存の銀行システムの多くは、外部からの自由な更新を受け付けることはできません。また、例えばアフリカの企業と日本企業の取引の場合は、中間に現地の銀行や国際間決済システムなどを通るため、5営業日ほど要します。手数料が10%も取られる場合もあるなど、コストも掛かります。

あるいは、アニメキャラクターのデジタルアイテムを日本人とインド人の間で売買するような場合にも使えるでしょう。こうした国際的な決済に発生する多くの課題を解決することができます。

中村:当社の事例としては、旭化成さんと一緒に起ち上げた偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia® (アクリティア)」です。簡単に言うと、商品の偽造や盗難による損害といった問題を解決するサービスです。

グローバルで見た偽造品の年間被害額はトータルで年間約50兆円にものぼると言われています。物流のあらゆる場面で被害が出ていて、特に高級品は狙われやすく、これまではQRコードやホログラムを使う偽造防止技術があったのですが、それ自体がコピー可能で、実は根本的な解決にはなっていませんでした。

そこで、特殊な微細印刷技術を応用した、複製のできない次世代偽造防止ラベルを使い、裏側でブロックチェーン技術を用いて一元管理するようにしました。タグは専用の真贋判定デバイスで読み取り真贋判定を実施して、その判定結果がブロックチェーンネットワークに記録されます。「Akliteia® (アクリティア)」は高級バッグや海産物のウニなどにも活用されていて、例えばこのタグがバッグの外から見えないところや、ウニのパッケージに張り付けます。ブロックチェーン技術を活用することで、どの工程で誰から見ても本物だと証明できるようになっているのです。

ブロックチェーンで流通過程の本物判定を管理する「Akliteia® (アクリティア)」

中村:最近ではいろいろな業種から当社へご相談をいただいており、想像以上にお困りの企業は多いという感触です。将来的に照会用ブロックチェーンは、社会で広く使ってもらえればと考えています。

「ブロックチェーン技術には信頼性の担保に一定の意義がある」

今後の事業の展望を教えてください。

中村:事業の展望は大きく二つあります。一つは、企業の抱える課題に対するコンサルティング支援の方向性です。活用事例を示したり、ブロックチェーンで何ができるのかをアドバイスしたりしながら、IT面でもあわせて支援を行っていきたいと考えています。

もう一つは、自分たちがサービスを提供する主体になることです。現に今も、FiNANCiEさんと組んで、ブロックチェーン技術を用いた「web3版クラウドファンディングのサービス」を展開しています。好きな人やプロジェクト、街を応援するためにトークンでつながる世界を目指しています。少額からでも応援ができて、トークンの価値が株式のように将来値上がる可能性もあり、また、セカンドマーケットでトークンの売買をできたりするのが特徴です。

齊藤:私がそもそもProgmatを作ったのは、「便利で、且つ“裏切ることのない”システム」を作りたかったからです。これは、私が長く金融機関の中にいたから実感していたことを原体験としていて、既存の金融システムはすごく信頼できるが、顧客目線では非効率のかたまりの代表格です。顧客の希望を叶えるために改善を加えようとすると、数年の期間や数億円単位でお金がかかってしまいます。

一方でブロックチェーンを使ったプロジェクトは、ある日突然無価値になることが珍しくありません。便利だけど、まったく信用できないサービスが展開されていることが平気であります。そこで私は、高効率且つ信頼できるインフラの仕組みを提供しようとProgmatのプロジェクトを起ち上げ、会社としても独立しました。ブロックチェーンを使いながら同時に信用の高いサービス。ここには究極のビジネスチャンスが眠っていると思っています。

さらにその先に、二つの信頼があります。一つは、実在世界上のモノと、デジタル世界上のデータ(トークン)をつなぐ部分の信頼。中村さんの例でいう、バッグと偽造防止タグをつなぐ部分の信頼です。もう一つは、情報そのものに対する信頼。この、情報が偽物ではないということを担保する仕組みとして、ブロックチェーン技術には一定の意義があります。この二つの信頼ポイントをどちらもカバーした仕組みを提供していくのが当社Progmatの事業展望です。

「今まで価値がつかなかったものに価値がつくことで、温かみのある世界へ」

web3の技術によって世の中はどのように発展していくと予想していますか?

中村:便利になる側面と、ウェットな側面があると考えています。便利の面では、当社の重点分野の一つでもある金融を含め、情報インフラがより早く、便利で安全なものになるでしょう。例えば、高速道路で運転をしていて、料金が高いけど速く走れるレーンがあったり、逆にゆっくり走っていいレーンをゆっくり走り続けると料金が安くなるといったことがあってもいいんじゃないかと。そんなこともweb3およびブロックチェーン技術によるトークン化で実現できるかもしれません。

ウェットな世界観では、今まで見えていなかった価値に新しい価値が付くようになるかもしれません。街に貢献できるボランティアをしたら、その善行がデータになって可視化され、ボランティアポイントとしてのトークンがもらえ、それが貯まったら街の何かと交換ができたり、自慢できるといったような。今まで価値がつかなかったものに価値がつくことで、温かみのある世界が作れる可能性があります。便利さとウェットさの両面で何かを解決していけるといいし、その可能性を感じています。そうなるともっと世の中が面白くなると思います。

齊藤:サービスの見た目上は変わらない一方で、いつの間にか中身が変わっている――そんな発展を遂げていくでしょう。ある日突然、一口一万円で一等地のビルや、ハワイ便航空機の座席の一口オーナーになれたりするように、さまざまな財産やサービスが小口化され、オーナーとして保有できるようになり、流動化していきます。

また、個人も法人も、海外とデータや金銭のやり取りが増えていく中で、やり取りの手段の選択肢が増えていきます。その上、デジタル上でトークンをやり取りする時間もコストもゼロに近づく変化がここ10年以内に起こるでしょう。

中村:「web3は自由になる」と冒頭に話しましたが、自由を言い換えるならまさに、人々の選べる選択肢がどんどん増えていくことにつながりますね。

※本記事の内容は、2023年12月20日時点のものです。

齊藤 達哉Tatsuya Saito

Progmat,Inc. 代表取締役 Founder and CEO
2010年に三菱UFJ信託銀行入社。2016年にFinTech推進室を設立し、デジタル戦略を企画・推進。情報銀行基盤「Dprime」、デジタルアセット基盤「Progmat(プログマ)」などを立ち上げ後、金融機関や取引所、ソフトウェア企業の出資によるデジタルアセット基盤事業の独立会社化を発表し、2023年Progmat代表に就任。

中村 健Ken Nakamura

TIS株式会社 DX企画ユニット ジェネラルマネージャー
2002年にTIS株式会社入社。ITインフラ領域のプロジェクトマネージャーを務めた後、新規事業企画や海外事業展開などを経験し、その後は経営企画部門の責任者として中期経営計画の策定や複数のM&A/資本業務提携を担当。現在は事業サイドにて、社会課題解決系新規事業やペイメント関連新規事業の企画推進を担当。