TIS INTEC Group MAGAZINE

ITで、地域創生の願い叶えよう。ITで、地域創生の願い叶えよう。

CROSS TALK #01南雲 岳彦×油谷 実紀

街はプラットフォーム。その“幸せ”を、スマートシティで実現する。

スマートシティという言葉を聞いたことがあるという方も少なくないと思いますが、そもそもスマートシティとは何を示すのでしょうか。調べてみると「デジタル技術を活用して、都市インフラ・施設や運営業務等を最適化し、企業や生活者の利便性・快適性の向上を目指す都市」という定義がなされていますが、実際はどんな世の中を目指しているのか、また、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。本記事は一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事 南雲岳彦さんをお招きして、当社デジタル社会サービス企画ユニット エグゼクティブフェロー ジェネラルマネージャー油谷実紀とスマートシティで実現したい世の中について対談をしました。

「スマートシティとは、新しい都市の機能」

早速ですが、「スマートシティ」という言葉について、あまり馴染みがない方にも分かりやすく教えてください。

油谷さん(以下、敬称略):「スマート」というのは、元々「デジタル技術」という意味を含んで使われていた単語ですが、デジタル技術を使って、“都市の機能がどうあるべきか”という意味に変わってきています。“新しい都市の機能”という概念だと思います。

南雲さん(以下、敬称略):簡単に言うと、「テクノロジーを使って、市民の幸福感を高める街づくりをすること」ですね。テクノロジーを使うことで「便利になること」だけでなく、「もっと幸せになること」と説明すると、急に身近なものになりますよね。「生活への幸福感が湧く街づくり」のことを「スマートシティ」という単語は意味しています。

お二人がスマートシティを意識したきっかけはどんなことだったのでしょうか?また、そこには何か「社会課題」があったのでしょうか。

油谷:2014年頃に出た「消滅可能性都市」のデータを見て衝撃を受けたことが始まりでした。「消滅可能性都市」とは、2010年から2040年にかけて20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村のことを指します。それだけ日本では、子どもが生まれなくなっていくということに驚き、今後人口減少が進んだときに、日本はいったいどういう状況になっていくのかと感じました。

南雲:僕の場合、息子が自閉症で、自閉症児をもつ親やそれを支える人たちが集まるランナーサークルを立ち上げて活動していました。そんなある日、頸椎のヘルニアになり走れなくなってしまい……自分がいなくなったときに息子の面倒を誰がみるのだろうか、と不安を感じました。これぞまさに「社会課題」だと思いました。

今お二人がおっしゃった社会課題には、経済課題も含まれているのでしょうか?

※対談はマスク着用で実施し、撮影時のみマスクを外しています。

油谷:そうですね。やはり、経済が回っていないと現在と同じような暮らしができない、社会的なサービスが低下してしまう、という問題が出てきます。人口は減少し高齢化が進むけれど、経済を保っていかないといけません。それらに対して、AIなどの技術が必要になってきます。もちろん、AIで解決ができることがある一方で、解決できないこともあります。それは、物理的な作業。そこにはやはり人がいることが必要で、そのためには経済を回す、つまりGDPを上げることが最低条件かなと思います。

南雲:日本はデジタル化が遅れていて、このままでは生産性も今以上に上がらないでしょう。今までは人口が増え、消費が加速すれば勝手に経済が回っていました。
しかし、高齢者が増え人口が減っていくと、消費が進まず、結果として経済が回らなくなる。すなわち、高齢化が進む「地域」からほころびがでてきます。資本が投下されない地域は老朽化し、人口が減り、生産性が上がらない。これを解決するのは、デジタルテクノロジーしかありません。
一方で現代において、人間が経済的な豊さだけでは、「幸せ」を感じなくなっています。さらに、学びたいことを学べる、自分が学んだことを社会で実行できる、チャレンジできるということが欠けると幸せを感じなくなっています。
中国やインドなどでは、経済が急成長していく中で、副作用として環境問題が顕在化してきました。その問題に対して、人間の社会経済活動が地球の限界を越えないようにしていかないといけない。そのような社会課題と解決が起こる場所が、人のいる場、つまり「シティ」なのです。

「幸せを指標化したことで分かったのは“幸せには地域特性”がある」

「幸せ」というキーワードが出ましたが、「幸せ」とはどういったことを意味しているのでしょうか?

南雲:「幸せ」といいましたが、最近では「ウェルビーイング」という言葉が良く使われます。ウェルビーイングというのは、マズローが提唱する5つの欲求が満たされ、「身体的な健康」、「社会的な健康」、「精神的な健康」という、3つが満たされている状態のことを指します。
日本は「世界幸福度調査World Happiness Report 2021」において、世界で56位です。精神的健康、社会的健康、身体的健康の要素を全部で6つに分けて調査しているのですが、日本は、「人生の自己決定」と「他人への寛容性」という2点で精神的健康が低いという結果が出ています。
身体的な健康が満たされると「快適な人生」、仲間がいると「いい人生」、夢が叶うと「意味のある人生」。これを、スマートシティに落とすと、一番下が「元気に暮らしています」、街が好きだと「この街に満足しています」、愛着を感じ始めると「この街に住み続けたいです」、となります。更に、街づくりに参画するようになると「誇り」を持ち始めますよね。そして更に上位には、「この街に住んで幸福です」というものがきます。この「幸福感」含め上位概念を満たすことができるような街づくりをすると良いのではないかということが、データから見えてきました。

実際にそういった街づくりに取り組んでいる所はあるのでしょうか?

南雲:メルボルンでは、街の状況をスコアカードで比較できるように、政策のロジックモデルを作っています。例えば、健康とモビリティのデータを取っていて、それに基づいて街作りをしている。これがリバビリティ(暮らしやすさ)といわれるものです。更に上位概念があって、それがウェルビーイング(幸福感)でした。その“暮らしやすさの指標”と“幸福感の指標”の2層構造にすることが大事だと思ったのです。
この2階層を主観と客観のデータで測定し、因子間の相関関係や因果関係を算出しています。欧米型の個人の達成度合いで測る幸福感だけでなく、協調的幸福感と言われる「地域のコミュニティや次世代もみな幸せか?」というような問いを組み込んでいます。これがジャパンモデルです。暮らしやすさの階層には20のカテゴリがあり、例えば鎌倉は「環境共生」という因子が強い。他にも、福岡は「スタートアップ」、京都は「文化・芸術」が強いなど「幸せ」には地域特性があります。この因子を見つけていって、自分たちが大切だと思う因子を起点にして、デジタルも活用しながら次世代の街づくりをしていくと、市民参加や共感の輪が広がっていくということには確信を持っています。

TISインテックグループではどのような領域に携わっているのでしょうか?

油谷:当社グループはシステムインテグレーターとして、デジタルの技術を使って、従来、人手ではできなかったことに活かされるようにすることに取り組んでいます。今後、デジタル化は必須になっていく世の中において、もともと決済を得意分野として持っているので、そこをどうやって地域に役立てていくのかが重要かなと思っています。
会津若松市では決済領域について取り組んでおり、「その人がどういう行動をしたか」ということが決済のデータから分かります。決済においては、決済事業者がバラバラだったり、物を売っている商店がバラバラだったりしますよね。それをひとつにする。そして、そのデータを使ってリコメンドをするために、データ分析を行う。私たちは人を中心に考えており、「その人がどうしたらより幸せになるのか」「どう行動すれば幸せになるのか」ということが分かるようになるのがデジタル技術なのであると思い、取り組んでいます。人を中心に考えるということがキーです。具体的には、「地域ウォレットサービス」という当社グループのサービスを会津で使い、地域の人やお店をつなぐための基本的な価値交換のツールとしていきたいと考えています。

決済によって行動を見える化し、社会問題を解決するということですね。

油谷:そうですね。別の例としては、中山間地域に行くと、高齢者の移動手段の問題があります。高齢者はその地域の中でも比較的若い人の車に便乗して買い物に行くか、購入してきてもらうことが多くなります。その対価として、大根をあげるなどといった事例が増えてきています。いわゆる「物々交換」です。そういった人の善意に頼っている部分を、価値として可視化できると良いなと思っています。地域の人たちによる「共創」を作るには、そういったプラットフォームが必要です。

「街づくりのために必要なのは、“共助”」

南雲:ウェルビーイングとリバビリティを達成するためには、「経済的な豊かさ(経済的価値)」、「暮らしの安定性(市民価値)」「公正性・公平性(公共的価値)」「環境との共生(環境的価値)」の4つの価値が同時に実現しないといけない。「暮らしの安定性(市民価値)」は油谷さんが話した、相互扶助の話。これが日本ではどんどん弱体化していっている。これを骨太にするために、地域通貨を活用するのも一案ですね。お金以外の方法で、インセンティブを作って相互扶助を促すことが必要です。

地域に住む住民の関わり方についてはどうお考えでしょうか?

油谷:今、南雲さんがお話しされた「インセンティブ」という言い方が適切な言葉だと思いました。積極的に社会問題解決に関わりたいと思う人はレアで、そうでない人には行動を変化させるものが必要です。変わりたくなる政策やデジタルプラットフォームが必要です。

南雲:今の話はまさに「どうやって自分事化」してもらうかの話ですね。私もその観点から指標を作り始めています。

今日お二人でお話いただいて、改めて「スマートシティ」とはどういったものだと感じていらっしゃいますか?

油谷:「スマートシティ」というのは、あくまで“手段”としてのスマート化なので、ウェルビーイングな社会を作るというのが目的です。その中の大事な要素である「共助」においてデジタル化は必須だと思いました。「共助」をデジタルで支えていく、都市の機能の一部を担うというかたちにしていきたいですね。それが私の目指す「スマートシティ」だと思います。

南雲:僕にとっては、もはやライフワークですね(笑)。色々な仕事や活動を経験してきましたが、その全てが入っているのが「街づくり」。自分を「ウェルビーイング」にすること、次世代が「ウェルビーイング」に生活できるようにしたいと思いながら「スマートシティ」の活動をしていきたいですね。

※本対談は2022年2月25日に行われた内容です。

南雲 岳彦Takehiko Nagumo

一般社団法人スマートシティ・インスティテュート
専務理事
1990年に三菱UFJ銀行(旧三菱銀行)に入行。経営企画を担当し、データガバナンスの仕組み化を担う中で、「社会課題の解決のためにデータを使うこと」に注目。社会課題全体に視野を広げ、様々な生活の側面から社会課題と向き合ううちにスマートシティに行きつき、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートを立ち上げた。

油谷 実紀Miki Yutani

TIS株式会社 デジタル社会サービス企画ユニット
エグゼクティブフェロー ジェネラルマネージャー
1994年4月入社。TISインテックグループの戦略技術を担当し、インテグレーターとして研究開発事業の立上げを担う中で、AI技術だけでは何も生まれないことに気づき、「社会課題」に目を向ける。現在はスマートシティを中心に、決済プラットフォームやエネルギーマネジメントシステムなど、TISインテックグループのもつ強みを行政分野に適用し、市民のDX化に貢献。