ITで、地域コミュニティの願い叶えよう。

#09
芹澤 孝悦
プランティオ株式会社
代表取締役 CEO / Co-Founder
畑 秀行
TIS株式会社
ソーシャルイノベーション事業部
ソーシャルイノベーション第2部 フェロー

人と人のつながりが“アクティブ”であり続けることを目指して

急速な都市化、高齢化、そして人口減少が進む現代の日本において、地域コミュニティの活性化は喫緊の課題です。従来の密接なコミュニティのつながりが段々と薄れ始め、人々が孤立するケースが増えています。このように、人間関係の希薄化が目立つ現代において、人と人のつながりをアクティブにするためには、デジタル技術を駆使して新たなコミュニティの形を模索することが重要です。
本記事では、プランティオ株式会社代表取締役の芹澤孝悦さんをお招きし、TIS株式会社ソーシャルイノベーション事業部ソーシャルイノベーション第2部フェロー畑秀行と「スマートシティ推進事業における地域コミュニティの活性化」について対談を行いました。

パートナー共創で実現する地域コミュニティの可能性

地域コミュニティの特徴は、喜びを一緒に分かち合うご近所さんとのつながり

早速ですが、スマートシティ推進事業における“地域コミュニティ”をどのように捉えていらっしゃいますでしょうか?
畑さん
(以下、敬称略)
私が考える地域コミュニティには、「ご近所さんのつながり」という概念がベースにあります。また、リアルだけではなくデジタル技術を使ってつながった「仲間の集まり」というイメージも持ち合わせています。
コミュニティ内では、単なる知り合いという表面的な関係性ではなく、毎日顔を合わせて、世間話をしたり、困ったときは助け合ったりする温かい関係性を築いていくと思います。例えば、商店街の魚屋さんや八百屋さんと仲良くする地域住民の関係性が該当するでしょうか。
芹澤さん
(以下、敬称略)
私は困難な作業をみんなで行い、何かを成し遂げたときに喜びを一緒に分かち合うのが地域コミュニティの本質だと思います。
地域コミュニティを作る際、「コミュニティを作ります」と言って簡単にできるものではありません。「何かを一緒に始めよう」と複数の人たちが立ち上がって、明確な目標を持ち行動し続けることで成立するものだと考えています。

人口減少、デジタルリテラシーの格差、そして人間関係の希薄化

地域コミュニティの領域においては、どんな社会課題があるとお感じですか?
特に人口減少の影響は深刻です。現在、日本では月に約6万人というペースで人口が減少しています。これは毎月、町が一つずつ消滅している計算ですね。
人口規模と生活に必要なサービスや施設の維持には密接な関係があります。市町村を生活関連サービスの供給単位とした場合、人口が1万人規模でないと病院を維持するのが困難とされています。
また、地域コミュニティにおいては、デジタルリテラシーの格差をなくすようにすることが必要です。デジタルツールを使えない高齢者はコミュニケーション手段が限られてしまい、社会的孤立や分断が生まれる可能性さえあるでしょう。
芹澤
私も人口減少を考慮すると、高齢者や地域住民の活動が表面化しづらい点が課題だと考えています。過疎化が進む地域では、人の存在すら確認しづらい状況ですよね。
ひと昔前までは、お店や道で立ち話をする中で自然と住民同士の状況を把握できていました。しかし、過疎化が進む地域においては、双方の状況を把握しづらくなり、人間関係の希薄化につながることもあると思います。
なるほど。ちなみに、お二人が地域コミュニティの活性化に力を入れ始めたきっかけにはどんなものがありましたか?
我々TISには、「地産地消」を促進させたいという思いがあります。これはデータだけでなく、お金も含めて地方で生まれ、地方で循環させる仕組みの構築です。地域コミュニティが活性化すると、地元の小売業やサービス業が活発になり、地元の人々や観光客の消費が増えます。同時に、地域独自の文化や伝統が守られ、新たな文化的アイデンティティが育まれます。
TISでは、2022年度より札幌市のまちづくりにおけるコンサルティング支援を開始しました。2024年2月には「新・さっぽろモデル」として参画企業と共に地域コミュニティ向けのサービスを提供しはじめ、現在も「札幌市スマートシティ推進協議会」の運営などに取り組んでいます。
私は以前札幌に住んでいた経験もあり、今回の取り組みを先頭に立って推進し、現場を取り仕切る事務局に務めています。
特に、北海道は豊富な資源を持っており、観光と食に関するビジネスが重要ですよね。そこでデジタルを活用して地域コミュニティを活性化させたいと考えています。今回は、地域コミュニティの活性化の取り組みとして屋内農園を企画し、プランティオさんに協力いただける運びとなりました。
芹澤
プランティオでは「持続可能な食と農をアグリテインメントな世界へ」というビジョンのもと、人々が自ら食と農に関わる環境づくりに取り組んでいます。その中核となるのが、日本全国で展開しているスマートコミュニティ農園です。
スマートコミュニティ農園は、デジタル技術を活用した地域交流の新しい場であり、地域コミュニティの活性化に貢献しています。今回のTIS様との取り組みでは、地方創生や地域コミュニケーションの活性化に向けてポジティブな方向で貢献できると感じ、参加しました。

地域コミュニティ活性化で得られる、豊かな恩恵

地域コミュニティを活性化させると、具体的にはどのような恩恵があるのでしょうか?

孤独感からの解放、経済の活性化

芹澤
地域コミュニティが形成され、やがて活発になると、年齢や立場に関係なく、みんなが同じ目線で語り合ったり、一つの目標に向かって行動できるようになります。自然に笑顔が生まれ、心が満たされるようになるんです。こうした経験を通じて、人々は孤独感から解放され、社会とのつながりを感じることができます。
人々が求めているのは、昔ながらの井戸端会議が行われる、サードプレイスのような場所だと思うんです。
先ほど「地産地消」という言葉を使いましたが、個人が収入や所得を増やすことで自治体に税金が納められ、地域の発展に寄与すると考えています。同様に、法人が売り上げや利益を増やすと法人税が納められ、地方経済の活性化にもつながるとも考えています。

データ連携による新たなサービスの創出

また「地産地消」は、お金だけでなくデータも同様です。活動を通じて蓄積されたデータを活用することで、新たなサービスを創出できます。
TISでは、集めたデータを使って地域の状況を見える化し、地域住民のトータルケアを全面的にサポートできないか模索しています。例えば、介護予防支援との効果的な連携、見守りの効率化、医療サービスの最適化などです。

地域コミュニティ活性化を目指したプロジェクト

2024年2月に開始した「新・さっぽろモデル」

札幌市のスマートシティ推進事業「新・さっぽろモデル」においては、どのように関わっていらっしゃるのでしょうか?その概要や取り組まれている内容についてお聞かせください。
札幌市におけるスマートシティの取り組みは、新さっぽろ地区から取組みがスタートしたものです。新さっぽろ地区は新宿副都心のように再開発が進んでいる地域と、高齢化が進む団地の地域があります。この2つの地域をデジタルの利活用でどのように結ぶのかが、札幌市のスマートシティ構想の一環です。
再開発エリアはデジタル武装されていく一方で、高齢化が進む地域は孤立してしまい、分断されてしまいます。
また、高齢者にアクティブに動いてもらうために、様々なサービスを提供しています。そのうちの一つが「屋内農園」です。今回、スーパーが併設するショッピングモールのなかに小さな農園を作り、デジタル技術を活用したコミュニティを作ることにしました。スーパーでどのように野菜が売られてるのか、目の前で体感できる相乗効果も得られると思います。
引用:「新・さっぽろモデル事業」令和5年度の取組内容
また、それぞれのサービスの利用状況を集約・可視化するための基盤となる「新・さっぽろモデル版CRM」も構想しています。行政サービスごとに別のアプリが提供されている自治体もあり、それぞれに異なるIDとパスワードが必要だったりします。これでは高齢者には負担が大きいです。
そこで「シングルサインオン(SSO)」※という仕組みによって、一度ログインするだけで複数のサービスを利用できる環境を整えていく。デジタルに慣れていない方々にとっても便利で、アクセスしやすいサービスを提供することで、誰もが恩恵を受けられる社会を目指しています。
※一度のユーザー認証で複数のシステムやアプリにログインできる仕組み
芹澤
当社ではデジタルツールを使いつつ、実際の農園活動を通じてコミュニティの活性化につなげています。「grow」という専用のアプリを通じて、「野菜の間引きをしてください」「水やりの時間ですよ」「誰々さんが農園に来ました」といった通知を受け取ることができます。
まずは、屋内農園を通じて、人々の行動を見える化したいと考えています。農業をきっかけに人が集まり、その様子を可視化することが最初のステップです。次に、農園に参加しやすくなるように移動手段を考え、結果的に参加者の健康が向上するような仕組みを作り出していきます。

屋内農園により自然なコミュニケーションが生まれ始める

屋内農園を導入することによって、地域コミュニティはどのような変化を見せていますか?
芹澤
デジタルツールを使いつつ、実際の農園活動を通じてコミュニティが活性化していく。そこに大きな可能性を感じています。
「誰々さんが農園に来てる」と通知が来ると、「私も行かなきゃ」と思うわけです。あるいは「誰々さんが間引きをしました」と通知が来ると、「いつも間引きしてもらって悪いね、私も行くから」のように、自然なコミュニケーションが生まれるんです。
農園活動をきっかけに生まれたコミュニティですが、古今東西、食と農をベースにしたコミュニティが失敗した例はありません。今回も、必ずうまくいくと信じています。
本サービスは、今年の2月から取り組みを始めたばかりで、まだ半年も経ってないような状況です。しかし、利用者様からの声が少しずつダイレクトに届きはじめています。
「こういう風にしたら使い勝手がよくなる」「買い物ついでに楽しんでいる」といったポジティブなご意見もいただいているので、これから続けていくうちに価値を高めていけると考えています。

地域コミュニティ活性化を成功させるためのTips

市民へのサービスを向上させる、データ活用の力

収集された農園データはどのように活用するのでしょうか?
芹澤
屋内農園を通じて収集したデータは、地域コミュニティの活性度の把握に役立ちます。例えば、農園に通う人のデータを分析すると、通行経路や自宅からの距離が分かり、その人の活動量の変化も推測できるようになります。
行政の面では、慣例や慣習による判断ではなく、定量的・定性的なデータを基に施策やサービスなどの課題を的確に見極められるようになります。自治体主体で判断ができれば、中央からの自立につながるうえ、蓄積したデータを活用して行政運営の効率化も目指せます。
データをうまく活用することで、住民にとって役立つサービスが生まれる良い環境を整えられていきます。

データ管理におけるセキュリティ対策

データ管理のセキュリティ対策はどのようにしていますか?
芹澤
セキュリティを強化するにあたって、データ管理はブロックチェーンに移行することを中長期的に検討しています。ブロックチェーンを活用すれば特定の管理者を設置する必要がなく、第三者によるデータ改ざんや抜き取りなどのリスクを抑えられます。また、住民の個人情報の扱いは非常に重要な問題なので、厳格な規約に基づいて安全に管理しています。

新時代の地域コミュニティ|今後の展望や実現したい世界観

最後に、今後の展望や実現したい世界観について教えてください。
私たちの目標は、「地産地消」というコンセプトの下で地元のお金とデータが地元で循環する仕組みを構築することです。北海道の観光と食に関するビジネスにおいて、決済やデータの活用を通じ、地元住民の収入や所得を増やすことを目指しています。
地元住民の収入が増えれば、自治体の税収も増え、それがまた地域の発展につながる。やがて、地方経済が自立するようになり、その後も成長し続けられると信じています。
芹澤
私たちの目指す未来は、テクノロジーを駆使した「アーバンファーミング(都市農業)」の実現です。地域住民をつなぐコミュニティハブとなることを展望としています。
食料自給率の確保による危機感からではなく、食と農に触れる楽しさからの農園活動を行うといった、価値観のパラダイムシフトを起こす世界を目指しています。都市OS(※)の中で食と農業は意外と重要なパーツだと思っているので、TIS様とご一緒することで、より良い未来を作れると確信しています。
※都市OS:都市間にて、行政や医療などの生活に欠かせないサービスを連携させるシステム的な共通の土台
※本記事の内容は、2024年7月2日時点のものです。
芹澤 孝悦Takayoshi Serizawa
プランティオ株式会社代表取締役 CEO / Co-Founderエンターテインメント系コンテンツのプロデューサーを経て、日本で初めて“プランター”という和製英語を発案し、製品開発した家業であるセロン工業へ。2015年、プランターの意義を再定義すべくプランティオ株式会社を立ち上げる。growテクノロジーを搭載した都市型農園(スマートコミュニティファーム)を運営しながら、持続可能な食と農の環境づくりに取り組む。
畑 秀行Hideyuki Hata
TIS株式会社ソーシャルイノベーション事業部
ソーシャルイノベーション第2部 フェロー
1991年に国際ブランドカード会社入社。グローバル案件から地方創生案件まで幅広く経験。2017年TIS株式会社フェローとして入社(TIS兼業制度により地域信販会社の顧問としても活動)、一般社団法人さっぽろイノベーションラボ札幌市スマートシティ研究委員会メンバーとして活動、札幌市デジ田Type2採択時(2023年度)における中核的経営人材としてプロジェクトリーダーを担当、2023年木古内町教育アドバイザー兼教育CDO補佐官に就任。

CROSS TALK ITで、願い叶えよう。

社会課題解決をテーマに
TISインテックグループ社員と
外部有識者の方が対談を行うコーナーです。

INTERVIEW 叶える人

TISインテックグループ社員が、
社会課題の解決のために
叶えたい願いと想いを語るコーナーです。
  • NEW叶える人 #02 伊藤 淳 「共感と共創で、"楽しさ"を基盤とした地域活性化」を叶える。
  • 叶える人 #01 香川 元 「AIの力で、超効率的で持続可能な社会の実現」を叶える。

    MEDIA TIE-UP

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    • NEWMEDIA TIE-UP #01 “仲間力“で勝つ。TISが掲げる次世代SIerの新たな成功方程式
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