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ヘルスケアのIT化における課題と可能性

2023年6月に医療の専門家である小口氏・宮地氏をお招きし、ステークホルダーダイアログを実施しました。本ダイアログでは、ヘルスケアのIT化をテーマに当社グループのITケイパビリティや知的財産・ノウハウの活用のさらなる可能性を探るべく、当社グループの事業の状況や強みを説明した上で、社外の医療に関する有識者から、IT×ヘルスケアの課題と可能性について客観的なお立場で忌憚のないご意見をいただきました。

  • 日時:2023年6月30日(金)
  • 出席者:
    【社外有識者】
    小口 正彦氏(公益財団法人 がん研究会有明病院 顧問・医療情報部長)
    宮地 紘樹氏(医療法人社団 綾和会 掛川東病院 院長)
    【TIS株式会社】
    河村 正和(執行役員、企画本部長/コーポレートサステナビリティ推進責任者)
    吉田 博人(ヘルスケアサービスユニット エグゼクティブフェロー)
    【株式会社インテック】
    山口 浩明(常務執行役員、社会基盤事業本部担当 社会基盤事業本部長)
    【ファシリテーター】
    山口 智彦氏(株式会社クレアン コンサルタント)

出席者

小口 正彦氏
公益財団法人 がん研究会有明病院 顧問・医療情報部長
2009年がん研究会有明病院放射線治療部部長、2012年同院長補佐、2018年同副院長、2023年より現職。悪性リンパ腫・乳がん・直腸がんなどに対する放射線治療のエキスパート。現在はAIを有する統合がん診療支援システム(統合がん臨床データベース)を開発し、それを基幹とした個別化がん診療の提供を目指したAIホスピタルモデルづくりに従事している。
医学博士。放射線治療専門医。日本放射線腫瘍学会、日本医学放射線学会所属。

宮地 紘樹氏
医療法人社団 綾和会 掛川東病院 院長
居酒屋バイトと海外バックパッカーを経て2004年に医師となる。10年間外科医として勤務したのち、病院に通えない方を自宅で自分らしく過ごせるようサポートする訪問診療医に転身。現在は世界でも最も高齢化を迎える日本の現状を解決すべく世界各国に医療視察を行い、知見交流から新しい医療の形を模索している。2019年より現職。
医学博士。専門は総合内科・外科。

河村 正和
TIS株式会社 執行役員/企画本部長 コーポレートサステナビリティ推進責任者
金融事業本部などを経て、2017年経営管理部長、2020年執行役員企画本部副本部長。2021年より現職。コーポレートサステナビリティ、経営企画、財務・経理、IR・SR、コーポレートガバナンス、知財法務などを担当。

吉田 博人
TIS株式会社 ヘルスケアサービスユニット エグゼクティブフェロー
外資コンサルティングファームにて経営戦略・オペレーション戦略を中心にさまざまな企業変革を支援したのち、海外ブランドの日本代表、ベンチャー企業のCSOなどの実業を経て、TISに参画。コンサルティングに加え、社内新サービスの構想・立ち上げを担当。

山口 浩明
株式会社インテック 常務執行役員/社会基盤事業本部担当 社会基盤事業本部長
公益事業推進室、公益営業部などを経て、2017年ヘルスケアの営業部長、2018年からは首都圏社会基盤本部長を務める。 2019年4月より現任。

ファシリテーター
山口 智彦氏
株式会社クレアン コンサルタント

はじめに - 当社グループの強みと取り組む社会課題解決について

【河村 正和】

河村:当社グループは、コンサルティングサービスからシステム開発、IT基盤、アウトソーシングまでお客様のシステムライフサイクルやIT関連業務をあらゆる面からワンストップで最適サポートしております。顧客業種別売上高では、特にクレジットカードを始めとした金融業が36%と大きく、さらに製造業、流通業、サービス業や医療含む公共分野等の幅広い顧客基盤を持っていることが特徴です。これまでのシステムインテグレータは受託開発を中心とした事業構成でしたが、当社グループではそれに加えて受託開発で培ったノウハウ・知見を活かし、顧客や業界全体の課題に対して先回りして、当社自らがシステムや業務をサービス型で提供するという事業構造転換をグループ全体で進めています。当社グループは事業を通じた社会課題の解決を目指しており、取り組むべき社会課題として「金融包摂」・「健康問題」・「都市への集中・地方の衰退」「低・脱炭素化」の4つを掲げています。現時点では当社がもっともノウハウ・知見のあるペイメントを活かした「金融包摂」が中心ですが、それに加えて「健康問題」への社会インパクトのある取り組みを進めているところです。

本日のテーマである「IT×ヘルスケア」では、ヘルスケアプラットフォーム事業を足掛かりに健康問題に対するデータ利活用等のITケイパビリティによる社会価値・経済価値の両面での価値提供を実現したいと考えており、本日のダイアログを通じて、「IT×ヘルスケア」が実現する健康問題の解決に対して企業が担う役割についてご知見をいただき、日本に留まらずグローバルな視点での社会課題解決の可能性を探りたいと思います。

日本の医療体制が直面する課題について

【宮地 紘樹】

宮地氏:高齢化が社会の問題としては一番大きいと思います。ご存知の通り高齢化に関しては日本が世界のトップランナーで、もうすぐ65歳以上の人が30%に突入する時代ですが、具体的な課題としては、高齢者は慢性疾患とずっと付き合っていかなければならないこと、長期介護が必要なこと(健康寿命が尽きても寿命が残っている状況)、この2つに相当な医療費とマンパワーを注がなければならないことと思います。高齢者が増加し続ける状況で、これらをすべて社会保障でカバーするのが難しくなってきています。
関連して、インフォーマルなケア(*1)の推進が国の課題であり、1950年代に高齢者を12人ぐらいで支えていたものが、2050年には1.3人程度で支えなければならない状況です。長期介護を地域主導にシフトするだけでは、地域の介護を担う方々が疲弊するため持続可能な形とは言えないのではないでしょうか。長期介護と慢性疾患への対応を今後、誰が当事者として行うのかがまだ示されていないことが問題だと思います。

小口氏:当院は東京にあるがんの専門病院ですが、高齢化社会を反映して80代、90代の患者さんも多く受診されるようになっています。その際、慢性疾患を抱えてがん治療を受ける患者さんも増加し、その方に応じた様々な工夫をしたがん治療をすることになります。標準的なガイドラインでは対応できないような(慢性疾患や生活習慣を考慮した)医師の細かな判断・さじ加減が治療のキーとなる場合が多く、その情報の共有がされていないことが課題であると考えます。
がんは日本人の2人に1人は経験する頻度の高い病気であり、その約60%は治ります。
ということは高齢化社会に、がんサバイバーの方がどんどん増えていきます。長期にわたって治療の副作用・疾患に罹ったダメージを抱えながら社会復帰される方が増えてきていて、こうした方々を社会全体が支援する仕組み作りが求められます。病院だけではフォローアップの人手や体制がパンクする事態になります。

山口(浩):コロナ禍にあったこの3年間で、医療供給システムの課題が浮き彫りになったと思います。制度設計上、平時には最適に動く医療システムであっても、コロナ禍などの非常時においては機能不全に陥ることが判明しました。マイナンバーカード等デジタル化の課題はありますが、医療サービス提供の司令塔がないことが課題であったと思います。
一部地域では、地域医療機関が分業した成功事例もありましたが、それは医療機関が積極的にリーダーシップを発揮したこと、様々なステークホルダーがそれぞれの役割を果たしてサービスを提供していく棲み分けができたことの結果であろうと思います。

*1 インフォーマルケア....自治体や専門機関など、公式な制度に基づき提供される支援とは違い、家族、親族や友人、地域住民、NPO法人やボランティアなどによる非公式な支援

ヘルスケア情報の利活用の課題と企業が果たすべき役割

山口(浩):例えばがんという疾病に関して、日本各地に偏在している病理医の持っている症例や部位等の特化した情報や、患者に付随する様々な情報の共有は、その有用性が明らかであるのになぜ進まないのでしょうか。また、情報共有のためにはどんなブレイクスルーが必要でしょうか。

宮地氏:疾患については学会等を通してデータ登録があり、手術成績も集約されつつあります。一方でカルテ情報は、個人情報保護の観点から外部との共有を避けるため、データベースとして有効に活用することが難しいとされています。
また、海外では大学病院からクリニックまで繋がるすべてのカルテの共通データベース化を1年で築いた例もありますが、日本ではフォーマットの整合の前に、医療機関の横縦のつながりがほぼないのが今の状況で、情報を統一するのはかなり難渋している状況と思います。

【小口 正彦】

小口氏:電子カルテの医療情報は、フォーマットが病院ごとに微妙に違っており、同じ企業の電子カルテでも統一化は難しい状況です。また、日本では病院ごとに電子カルテのカスタマイズが進んでいることも統一化を阻む要因です。がん等の特定の疾病に関してだけなら統一データベース化でできるかと問われると、疫学のデータはあるが、治療の内容や患者の詳しい状況等、そのデータを用いて今後予防にどう還元していくのかの情報についてはなかなか進んでいない状況です。そこで当院ではどの電子カルテにも対応可能な統合がん臨床データベースを開発しました。PHR(*2)と関連して自身の医療情報を自分で管理するような、患者さんと協力してデータを集める仕組みを進める必要があると思います。その意味で、国ばかりに任せていても難しく、企業連合体のようなステークホルダーと共に進める必要を感じています。

宮地氏:情報の共有をアクセラレートするのは企業が良いと思いますが、情報をプールしておく際のセキュリティ管理において一企業や企業連合体が担保するのは難しいと考えます。エストニアなどでは国が主導しています。企業の参画の仕方としては、レセプトデータから予防に役立つサービスを作りマネタイズする等、明確なものがあればいいと思います。
高齢化への対応が進みにくい理由として、デジタル導入により社会保障費が減額される等の実績がないと自治体は着手せず、企業はマネタイズの見通しがつかないものに先行投資することができないので、ビジネスにも自治体の活動にも入らないところに当課題が位置する構造的な状況があると思います。

吉田:一般企業が介護や医療そのものの提供者としては入っていくのは難しいですが、弊社が様々な企業群と対話する中で、保険会社や健康食品会社などの企業はヘルスケアに非常に興味を持っています。こうした企業はヘルスケアに関わることで地域や自分たちのビジネスに何か役立てればお金を出す可能性はあると実感しています。
但し、個人情報のようなデータを預かっても扱いに難儀するとも思っています。その安全に利用できる基盤を整備することで、個人が自己の情報を渡し、様々なものに活用することにデジタル技術が寄与できると認識しています。現状の医療従事者に閉じず、もっと大きい範囲で人・モノ・金が集められるネットワークづくりを企業が主導できれば良いと考えています。

*2 PHR....PHR(personal health record)とは生涯型電子カルテのことで、個人の健康に関する情報を1ヵ所に集め、本人が自由にアクセスでき、それらの情報を用いて健康増進や生活改善につなげていこうというもの

高齢者のヘルスケアにおける課題解決の方向性

宮地氏:高齢者のヘルスケアの課題である慢性疾患や長期介護の対応の望みとして挙げられるのが、コミュニティケア(*3)であり、ソーシャルキャピタルを利用していかに医療の負担を軽減していくかが重要と考えています。ただ、核家族化が進み医療レベルが上がり、何かあれば病院に行けばいいという考え方が一般的なために、また地域に戻って近所同士で協力し合いましょう、と言われてもなかなかそのようなコミュニティを構築することは難しいと思います。逆に企業側からだと、高齢化によりヘルスケアのマーケットは拡大しているので、そこに介入していく機会は大いにあり、最初から社会保障を当てにせず、様々なステークホルダーとのつながりの中で、共に社会課題を解決していこうという考えが肝要だと思います。
行政側では、大きな人口を抱える自治体の場合は、権限責任範囲が細分化され過ぎていて、包括的に街の中でアクションを起こす場合、推進力が落ちることはあります。その点、私が勤務する病院のある掛川市のような10万人程度の都市では、高度には機能分化が進んでいないので、都心よりも課題が捉えやすく、街のキーパーソンが複数人手を挙げれば全体として動ける状況です。今後特に地方で先に高齢化が進んでいくフェーズであり、まずは地方から課題を解決していくべきという気持ちもあって、自身も掛川市に来た経緯もあります。

吉田:医療費軽減と言いつつも、がんや先端医療に対してはしっかり投資していくべきと思います。一方で、生活習慣病の予防を推進することで、その領域への投資負担を軽減することは可能ではないかと考えています。地域医療連携やPHRを進めていく中で、糖尿病や脳卒中の患者さんは3年に一回戻ってくるという話もあり、三次予防(*4)や、一回目に罹らないようにすることは非常に重要です。健康でいるための仕掛けは何かというと、病院の情報だけではなく、家でいるときの状況等も、かかりつけ医と連携することで早期に対策を打つこと、そして市民自身が健康へのリテラシーをあげていくことがキーになると思います。
また、データは蓄積していかないと有用性が向上しないので、少なくとも自身が高齢者になったときにITリテラシーがある程度あると想定し、その時に使うためには今から貯めていかなければいけない。今のターゲットだけはなく、今後来るべきマーケットを作ることを考えて一歩を踏み出す必要があると思うが、そのために様々なステークホルダーの有志との協力が必要不可欠であると考えています。

【山口 浩明】

山口(浩):大病院から地域の病院に戻す場合、急性期から回復期を経て慢性期になったときに、 色々な地域の施設を行き来するすべてのライフログを追跡する仕組みが求められますが情報のオーナーが病院やクリニックや介護施設、特別養護老人ホーム等の複数に渡るので、データは様々な施設・場所に点在しています。それを誰かが一括で管理するとか、もしくは各々の場所にあってブロックチェーンでギャザリングしてくるとか等の方法論はありますが、現状では制度面での追随ができていない側面もあり、関係者が政策提言等のアドボカシー活動も併せて行っていく必要があります。

*3 コミュニティケア....社会福祉の諸分野において,その対象者を,特別な施設の中だけで処遇するのではなく,できるだけ地域の中で地域とのつながりを保ちながら処遇すること

*4 三次予防....すでに疾病が発病し、疾病として完成した後に、リハビリテーションや再発防止をすることで、社会復帰できる機能を回復させ、またそれを維持すること

ヘルスケアの課題解決における当社グループの可能性

宮地氏:以前ケニアに行った際、M-Pesa(*5) という送金サービスがあり、ほとんどの貧困層が貯金ができない状況下であっても、携帯電話の中に仮想通貨があり、様々なサービス利用が可能になるのを目にしました。貴社は現在の金融に関する強みや資産を活かし、ヘルスケアの領域で質の向上や様々な人にサービス提供を促す等のイノベーションを起こす可能性があると思いました。例えば、仮想通貨を利用し、医療従事者でないステークホルダーが潜在的なケアギバーとなる仕組みの構築等、病院のトークンや地域通貨等小さいものであっても医療の形そのものを変えていく可能性があると思います。

【吉田 博人】

吉田:今後のヘルスケアについては、まだ統一的なルールも決まっておらず、何が正しいかを決められていない領域も多くあります。しかしその状況下でも、状況改善をただ待つのではなく、すぐにマネタイズまでは見込めないとしても、心あるステークホルダーと共創し小さくても成功事例をつくっていくべきではないかと思います。

*5 M-Pesa....ケニアの通信会社Safaricomと、南アフリカ共和国のボーダコムによる、携帯電話を利用した非接触型決済、送金、マイクロファイナンスなどを提供するサービス

■ダイアログを終えて
小口氏・宮地氏より、上記に要約された示唆のほかにも、ヘルスケアのIT化における課題と可能性について、地域医療や専門医療におけるより具体的な視点で気付きをいただきました。
当社グループがこれまで培ってきた強みは、ヘルスケアの分野においても社会課題解決に資する可能性があるとの気づきを得られました。構造的に解決が難しいと言われている業界であっても、社会課題解決を目指す高い視座を持ち続け、当社グループのITケイパビリティや知見を活用し、志を同じくする多様なステークホルダーとの協働を強力に進め小さくても成功事例を積み重ねていくことが、やがては大きな社会的価値の創造に繋がっていくことを確信いたしました。
本ダイアログで獲得した気づきを活かし、今後も、様々なステークホルダーとの価値交換性を高め社会から必要とされる企業グループになるとともに、より多くの人々が幸せになる社会を追求して参りたいと考えます。

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更新日時:2023年10月17日 15時18分