サステナビリティ活動の進捗について
2022年6月にESGスペシャリスト 岸上有沙氏をお招きし、ステークホルダーダイアログを実施しました。このダイアログでは、当社グループのこれまでの社会価値創出・社会課題解決を果たすための活動とそれをどのように発信してきたのかを説明した上で、岸上氏の客観的な立場からご意見をいただき、新たな気づき・更なる改善を図るべく、様々なステークホルダーとの価値交換性を高める活動の一環として実施いたしました。
- 日時:2022年6月16日(木)
- 出席者:
【社外有識者】
岸上 有沙氏(ESGスペシャリスト)
【TIS株式会社】
河村 正和 (執行役員 企画本部長/コーポレートサステナビリティ推進責任者 )
岡 玲子 (執行役員 企画本部副本部長兼企画部長)
出席者
岸上 有沙氏
ESGスペシャリスト
2007年よりFTSE Russell社に勤務し、2015年よりアジア環太平洋地域のESG責任者として、同域内でのESGを考慮した企業・投資行動促進に携わった。
2019年4月より独立し、サステナブルな社会に向けた投資と事業活動が好循環する社会の確立を目指す活動に従事している。
日本サステナブル投資フォーラム(JSIF) 理事、Chronos Sustainability社のスペシャリスト・アドバイザ―、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」のメンバー等、各省庁検討会委員。
河村 正和
TIS株式会社 執行役員 企画本部長
コーポレートサステナビリティ推進責任者
金融事業本部などを経て、2017年経営管理部長、2020年執行役員企画本部副本部長。2021年より現職。また2021年よりタイ上場子会社MFEC Public Company Limited のDirectorも兼務。
岡 玲子
TIS株式会社 執行役員 企画本部副本部長兼企画部長
産業系の事業部門でSEやプロジェクトマネージャーを経験し、2016年からは開発部長を務める。 2019年4月より企画部副部長に着任し、2019年10月からはコーポレートサステナビリティ推進室長を兼務。 2021年4月より現任。
人材活用について
岸上氏:世界経済フォーラム等で議論されている今後10年のリスクの中で、ICT関連に従事する人材が大きく不足すると取り上げられています。ICT人材の確保は、TISインテックグループにとってもマテリアルな課題と外部からは見えますが、社会情勢を踏まえ、人材確保と活用に対して、どのような考えをもって、どういった対策をしているのかを積極的に発信すると良いと感じます。
河村:人材の確保は、本当に重大な課題との認識です。そのため人材戦略の立案・推進の高度化を目的に「人事本部」を新設・独立本部化し、人事本部がその年度及び将来にどの様な施策・環境提供をなぜ行うのかを詳らかにし、振返っていくことを宣言した「人事本部マニュフェスト」を社員に示しています。このマニュフェストでコミットした施策を着実に実現することで、社員が安心と働きがいをもって事業に貢献できる環境を構築しています。また、定期的に「できたこと/できなかったこと/みなおすこと」を振り返りとして社員に示しており、社員と経営の信頼関係の向上ができていると評価しています。このご指摘にお応えする中で、ICT人材はITベンダーの中の奪い合いではなく、ICT人材不足をITサービス業界共通の社会課題と捉え、ICT人材育成のエコシステムを育てることで持続可能な状態を作り上げることが必要であることに気づかされました。その意味でもIT業界で働きたいと思われるような魅力的な職場づくりや仕組み・制度をつくっていく仲間づくりをしていかなければならないと痛感しています。
岡:昨今、学生や若手の社員と会話する機会が多くあり、従来のシステムエンジニアとしてのキャリア志向だけではなく、いわゆるDXコンサルティングという分野やデジタル技術を活用した新しい事業をしたいなど、いわゆる受託開発にとどまらない領域で活躍したいというニーズを聞いています。当社がそのような志向をしている人材の受け皿となり、社会で活躍できる場を提供することによって当社の社会課題の解決力を高めていきたいと考えています。
多様性について
岸上氏:「多様性」というと、性別などの属性や外国人の採用などに重きがおかれますが、見落としがちなのは、こうした明示的な違い以外での多様性です。性別などの属性の多様性を高めると同時に、まずは違いがあることをプラスに感じるようなコンセプト作りが必要だと感じています。 同じ日本人であっても、海外経験、趣味、課外活動など様々な経験の積み重ねによって異なる視点を持つことができ、それをどう取り込んでプラスに作用させるかを意識することが重要だと思っています。
岡:まず、当社グループは多様性確保のためにも、女性の社員にいかに活躍してもらうかが経営課題の一つでした。そのため、社員へアンケートを使って意見を吸い上げ、対話を繰り返すことなどを行いました。現在は、「なぜ女性を活躍させなければならないか」という問いに対し、肯定的な考えに変化してきていると感じます。このように違いを認識した上で、その必要性について対話することで、女性活躍の話だけでなく、多様性確保がビジネス展開していく上で重要であるという肯定的な文化がはぐくまれつつあります。
社会課題解決型ビジネスの推進について
※本ダイアログ時点において、TISインテックグループでは解決に注力する社会課題として「金融包摂」「都市の集中・地方の衰退」「低・脱炭素化」「健康問題」の4つの分野を特定し、その売上高を中期経営計画(2021-2023)のKPIの一つに採用しています。
金融包摂
岸上氏:ITを駆使してキャッシュレス化を促進する事業に積極的に取り組まれ、これによって新たに金融システムにアクセスできる層を増やしているということを、社会課題解決として位置付けられています。そのような面がある一方で、意図せずに携帯電話を通じて子供がアクセスすることや、フィナンシャル・リテラシーが脆弱な消費者が限度を超えて簡単に利用してしまうなどの負の影響・弊害も考えられます。そのような消費者視点でのリスクについても開示が充実できると良いと感じましたし、さらに金融リテラシーを高めるような活動も並行して進めるべきと思います。
河村:例えば不正に決済されないような取り組みは非常に力強く進めています。一方で、利用者・消費者の周辺で発生する負の影響等、社会全体の視点が不足していたことに気づかされました。また、我々の意図しないサービスの使われ方をしないように目配せする必要もあると感じましたので、我々も幅広に深く考えて情報発信する重要性をこの対話を通じて学びました。
岡:サービスを提供する際の課題として、利用者のデジタルリテラシーの有無によって平等に受益できないというところにも課題があると感じました。例えば、サービスを利用するためのパスワードの管理が苦手な方は利用を断念したり、紛失によるリスクを負うことになったりします。私たちにとって当たり前と思っていた部分についても見直す必要性を感じました。
都市への集中・地方の衰退
岸上氏:行政向け情報システムの導入について多数の実績があるということをお聞きしました。この領域においては、自治体ごとに個別のシステムを導入することで、社会全体としては非効率を生み出しているという話も聞きます。そのような社会問題に対応しているのであれば、システム導入実績に加えて取り組みを発信することも重要だと感じています。
河村:当社グループも同じような課題認識のもと、すべて一からお客様の要件を汲み取ったシステム開発を行うのではなく、使いやすさや標準化をしっかりと追求しながら、共通で使えるシステム・サービスの開発・提供をめざして進めております。そのようなコンセプトで作ったシステム・サービスを各自治体にご採用いただくことで、日本全体のIT活用と非効率の解消に繋がっていくと考えています。これは我々だけではなく自治体同士の連携も必要であり、日本全体で進めていくテーマと感じています。
低・脱炭素化
岸上氏:農業DXは都市への集中の課題策だけではなく、低・脱炭素化、生物多様性などのカテゴリにおいても効果が期待できるすそ野の広いテーマだと思います。各社が脱炭素化に取り組むためには、自社のみならず、事業・サービスを行う上でのすべての関係者、つまり、サプライチェーン全体を含める必要があります。特にサプライチェーンが複雑になりがちな農業分野において、サプライチェーンの全ての関係者の特定と管理においてIT技術を活用することによって、信頼性や利便性が高められるのではないかと感じています。
岡:トレーサビリティの重要性に関するご示唆と思いますが、全体感としてサーキュラーエコノミーの視点に立った検討が薄いと感じております。サービスとしての機能アップや利便性の向上に留まらず、サプライチェーン全体をブロックチェーンなどのデジタル技術を活用しながら、情報連携・ステータス管理などを進めることで、全体効率にも寄与するような役割も担っていきたいと考えております。そのためにもデータ・情報の標準化や業界をまたいだプラットフォーム化の必要性も感じております。
健康問題
岸上氏:健康問題では、医療・予防といったフィジカル的な課題解決に目線が行きがちですが、英国をはじめとした各国機関投資家の傾向からも見られますように、メンタルヘルスに関する企業対応への関心が高まっています。心身ともに健康でいることが益々着目されてきており、メンタルヘルスの視点での取り組みも意識した方が良いと感じています。
河村:当社グループの事業の話ではなく、企業としての取り組みの一例になりますが、新型コロナ感染症防止の観点でテレワークを積極的に推進している中、社員が孤立化しないよう、例えばアプリケーションを使ったコミュニケーション促進など取り組みを強化することによって、会話が活性化し働き方も改善されるという経験も得ています。引き続きメンタルヘルスはまずは当社グループにおける重要な経営課題として取り組んでいきたいと思います。そこで培った知見や経験を活かして、その次のステップでは事業としての貢献にもつなげていけたらと考えています。
安心な製品の提供について
岸上氏:AI技術が研究段階から実用段階に入る中で様々なサービスに組み込まれ始めています。そのような状況下で、AIによる潜在的なバイアスが生じるなど、社会に新たなリスクが発生することへの懸念が高まっています。意図しないリスクを増やさないため、哲学や文化人類学と言った人文科学系の知見も活用し、人の行動や倫理観からのリスク分析アプローチも必要だと思われます。また、こうした潜在的なリスクの存在と対応方法に関して、対外的な発信も重要だと思います。
河村:人の行動としてAIそのもの、AIを活用したサービスがどう影響を与えるのかを考えることは重要だと思います。ご示唆の通り、哲学や文化人類学の知識を持つなどの人材が社内にいると多様性が高まり様々な観点からリスクや機会を検討することが可能になり、安心安全なサービスが提供できるようになると感じました。
マテリアリティに関連する活動の進捗について
岸上氏:社会課題解決と貴社ビジネスの接点を強く意識していらっしゃることが見受けられました。一過性ではなく、持続可能な取り組みとするためには重要な視点だと思います。他方、そうした事業による一つの社会課題解決という「点」から、「面」としてどのような社会へのインパクトを与え、受けているかの視点を高め、融合させることで、さらなる発展があると考えます。
河村:当社グループは、経営マネジメントの仕組みとしてKPIが有効的に働いています。KPIは、活動を可視化して改善を実感していくための良いツールだと思っています。これまで財務領域から始めて、次に財務に紐づくプロセスをKPI化してマネジメントを行ってきました。さらに、非財務領域でもKPI化を進めており、特に人材に関するKPI設計については、社会価値・顧客提供価値の向上の観点で重要性をより感じてきております。今後更なる進化系として、我々の企業活動を事業計数面だけでなく、社会インパクトとして定量化・目標化し、社会にどのような価値を提供していくのかという観点を当社グループの経営マネジメントに組み込んでいきたいと考えております。
■ダイアログを終えて
岸上氏より、上記に要約された示唆のほかにも、ビジネスと人権に関する示唆やコーポレートガバナンスに関する示唆など様々な気付きをいただきました。その中で、当社グループの価値は、社会のエコシステム全体を高めることによって協奏的に高めていくことができると確信いたしました。また、良き変化の中にも負の部分が必ずあり、その負の要素を緩和する取り組みの重要性も確認することができました。本ダイアログで獲得した気づきを活かし、今後も、様々なステークホルダーとの価値交換性を高め社会から必要とされる企業グループになるとともに、より多くの人々が幸せになる社会を追求して参りたいと考えます。