財務担当役員メッセージ
財務方針/資本政策の基本的な方針
「持続的な企業価値の向上に向けて、中長期の経営視点から、成長投資の推進・財務健全性の確保・株主還元の強化のバランスのもと、資本構成の適正化を推進」
- 持続的な事業利益の成長・収益性向上によるキャッシュ創出力の強化を図るため、積極的に成長投資を推進し、この一環として事業ポートフォリオの見直しも継続的に検討・実施
- バランスシートマネジメントの強化等を通じて当社グループの構造転換の進化に応じた資本構成の適正化を推進することにより、財務健全性を確保した上で資本コストを上回るリターンを持続的に創出
- 株主還元については事業成長に応じた充実化を図る
Q. あらためて財務方針に関わる中期経営計画(2024-2026)の主な指標について教えてください。
当社グループは、以前から資本効率性を意識した経営を推進しています。そうした中で、ROEについては、一過性の要因を除いて2024年3月期実績を上回る水準を実現するという考えから最低ラインとし16%超を目標とし、長期視点ではIT業界のトップ水準である20%超を目指すことにしています。
ROICについてはROEと同様、「資産(=知財)の価値創出」を重視する観点から、新たな経営指標として導入しました。この3カ年という時間軸では、積極的な成長投資によりやや低下する想定のもと、目標は13%超とし、長期視点では成長投資の効果創出によって、より高い水準の実現を目指します。
EPSについては、「価値ある成長」を志向する観点から、前中期経営計画に引き続きCAGR10%を目標とし、事業戦略と対をなす形で財務戦略を推進することで達成を目指します。
Q. 中期経営計画(2024-2026)1年目の2025年3月期をどのように評価していますか。
はじめに業績面に関してですが、前中期経営計画の最終年度である2024年3月期までの成長を主に牽引してきた2つの金融系大型開発案件が同時にピークアウトを迎え、その影響が大きく生じる難しい局面でしたが、高付加価値ビジネスの推進に加えて良好な事業環境における力強いIT投資需要を取り込むことで全体としては事業成長を継続し、期初計画を上回って着地することができ、よい形で2年目につなげることができました。しかしながら、中期経営計画(2024-2026)の最終年度である2027年3月期の営業利益目標810億円の達成には、利益成長を加速させることが必要であり、引き続き目標達成に向けて積極的な事業展開とそれを支える成長投資を推進してまいります。
対をなす財務面に関しては、こうした大きな利益成長を実現していくために成長投資は不可欠であり、資本配分において重きを置くべきという考えのもとで期初スタートをしました。株主還元については13期連続の増配とともに、45%から50%に引き上げた総還元性向に基づく約64億円自己株式の取得を実施しました。また、政策保有株式については目標である貸借対照表計上額の純資産に対する比率10%以下を達成してはいるものの、引き続き縮減を進め、同6.5%(前期比▲1.7ポイント)となりました。成長投資に関しては、195億円という実績でした。内部強化目的については113億円と着実に投資を実行しましたが、M&A等については積極的に検討したものの、投資規律の観点等も踏まえて、大きな投資を実行するに至らず、82億円でした。3カ年累計として、内部強化目的で300億円、M&A等で700億円を想定する1,000億円の成長投資の枠組みのもと、引き続き積極的に推進していく考えに変わりはありませんが、1年目を終えた時点ではキャッシュポジションの高まりや厚みを増した自己資本に対して課題感を持っています。
Q. 成長投資1,000億円の枠組みは変更ないとのことですが、あらためてキャッシュアロケーションの考え方を教えてください。
キャッシュアロケーションの基本的な考え方は、企業価値を向上するものに対して適時・適正に配分することです。財務方針/資本政策の基本的な方針で定める、持続的な企業価値の向上に向けた成長投資の推進・財務健全性の確保・株主還元の強化のバランスを常に大切にしながら判断をしています。
当社グループの属する情報サービス業は成長著しく、近年は大規模なM&Aも含めて、動きが活発化しています。このような環境の中で、当社グループにおいても非連続の成長につながるM&A・出資を目的とした投資については引き続き積極的に検討・推進してまいりたいと考えています。先ほど申し上げたように、3カ年累計700億円の想定に対して、1年目は82億円の実績でしたが、投資執行のタイミングや規模は案件に応じて様々であり、これだけをもって進捗が遅れていると判断するものではありません。画一的な期限設定や期間按分することで上限を設け抑制をするものでもないからです。
また成長投資に限らず、資本政策の出動には機を逸することがないよう機動性も必要です。キャッシュアロケーションについては、その時点のバランスシートの状況やキャッシュポジションにも目配りをしながら企業価値向上に資する施策に対し柔軟に最適配分をする考えであり、この考えを実績でしっかりとお示ししていきたいと思います。
Q. 今回、資本構成適正化を目的とした自社株式の取得を決定しましたが、どのような背景がありますか。
これは資本効率性の向上を企図するものであり、こうした資本構成の適正化に向けた施策については「状況等を勘案し、機動的に実施」することを財務戦略の中で謳っています。その資本効率性を測る指標としてROE16%超の目標を掲げているわけですが、中期経営計画(2024-2026)で示す利益計画とキャッシュアロケーションでは達成はできない、との市場の声も受け止めていました。また、2025年3月期末のバランスシートの状況を見た時に、事業成長によるキャッシュ創出力の高まりを背景に、自己資本比率が61.5%に、キャッシュポジションも高まりつつあることからも、資本構成の適正化が必要だと判断し、株主還元の基本方針に基づく70億円相当に加え、さらに350億円相当を追加し、総額420億円の自己株式取得の実施を決定しました。これにより、ROE16%超という目標達成への確かな道筋をお示しすることができ、EPS成長についても同様に、目標に向かった伸長を図ることができたと考えています。
こうした資本効率性に対する意識やコミットメントとして掲げる目標の達成に向けて必要な取り組みを実行する経営の姿勢に対して、株主・投資家の皆様からポジティブな反応をいただけていることは、期待に応えることができたということで嬉しく感じています。
Q. 2025年3月期 決算説明資料で「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示が拡充されていますがこの背景を教えてください。
「現状分析・評価」で図示していますが、順調な事業成長と資本政策等を続けてきたことで資本コストを上回るリターンを持続的に創出し、これに応じて市場評価も向上していました。しかしながら、近年は業績の牽引役であった大型案件のピークアウト影響やそれを打ち返して力強い成長を実現するだけの明確な成長戦略やサービス化の進展を示すことができず、いわば“成長の踊り場”に差し掛かったとの市場の見方が強まり、PERに関しては安定的に高まっているとは言えません。PERの伸び悩みが結果として、企業価値を示す指標として重視をしているPBRの引上げに十分に寄与していない状態です。もちろんこうした現状把握や打開に向けた議論を社内でしてきてはいましたが、これまでよりも踏み込んでさらなる成長に対する経営の考え方や取り組み方針を明確に打ち出し、株主・投資家の皆様とのエンゲージメントを高めることで成長期待を醸成することがこれまで以上に重要だと考え、開示の拡充を図りました。特に「計画・取り組みの概要」のPBRロジックツリーで図示したような、課題や取り組みを具体化することで緊張感とスピード感をもって取り組むことができますし、それを株主・投資家の皆様と共有することもできるというメリットがあります。企業成長・価値向上は当社が有する本質的な価値が市場評価に現れてこそ、という想いが伝わればとの意図もあります。
Q. PBRのロジックツリーから認識している課題とその対策について教えてください。
PERが高まっていないと申し上げましたが、特に期待成長率が低い、これは残念ながら同業他社と比べても劣後していると認識しています。中期経営計画(2024-2026)の最終年度である2027年3月期の業績目標に対し、市場のコンセンサスは届かないという見方をしていることが、この最たるものです。まずは業績の進捗によりこの計画の蓋然性を高めていく必要があります。
また、かねてより取り組んでいるサービス事業の進展や最重要の経営資本である人的資本への取り組み・投資が事業成長を牽引しているなど、好調な事業環境を追い風として成長の力強さを増していくストーリーを解像度高くお示ししていくことが優先課題の一つだと認識しています。こうした成長ストーリーの提示と実績の積み重ねを通じて、株主・投資家の市場の皆様の理解促進と期待醸成に努め、当社が有する本質的価値によりPBRを高めていくことが、重要なテーマであると考えています。
Q. 株主、投資家の皆様へメッセージをお願いします。
あらためて、当社グループはグループ基本理念「OUR PHILOSOPHY」軸での経営を通じて社会価値・経済価値を創造し、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上の実現を目指しています。引き続き事業と財務の両面から施策を推進し、将来への期待溢れる企業となることで引き続き市場と株主の皆様に選ばれ続けられるよう努めてまいります。このために資本配分におきましても、最重要資本である人材への投資をはじめとした積極的な成長投資を継続することで、キャッシュの創出力をさらに強化するこの善循環を生み出していくとともに、株主還元の充実化を図る考えに変わりはありません。
株主・投資家の皆様とのエンゲージメントの機会を通じて様々なご指摘やご意見等を頂戴することが多く、時には手厳しいものもあります。ただ、それは当社グループに長期視点で寄り添い、成長や企業価値向上を期待しての大変貴重なアドバイスや気づきであると受け止めると同時に、それらを経営に活かし必要な施策を検討・実施してきたと認識しています。いわば、皆様とともに、当社グループは経営を深化させ、経営の規律を持ち企業価値を高めてきたと言うことができるかと思いますし、これからもそのスタンスには変わりはありません。さらなる経営の深化や企業価値の向上のために引き続きステークホルダーの皆様との結節点として積極的に対話を重ね、ご期待に沿えるように邁進してまいります。
2025年9月
常務執行役員 企画本部長 河村 正和