「純国産」量子コンピュータが稼働開始
~万博会場からクラウド接続し、来場者に新しい“量子体験”を提供予定~
2025年8月4日
TIS株式会社
TISインテックグループのTIS株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:岡本 安史、以下:TIS)は、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(以下:QIQB)をはじめとする共同研究グループの一員として、主要部品・パーツおよびソフトウェアがすべて日本製となる「純国産」超伝導量子コンピュータ※1の開発に取り組み、2025年7月28日に大阪大学豊中キャンパスにて稼働開始したことを発表します。
また、本成果を広く発信するため、2025年8月14日~20日に大阪・関西万博で開催される企画展「エンタングル・モーメント―[量子・海・宇宙]×芸術」にて、純国産機のパーツ展示やクラウド接続を通じた体験プログラムの提供を予定しています。
「純国産」超伝導量子コンピュータの稼働について
QIQBの根来誠副センター長/教授、理化学研究所(理研)量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長、株式会社アルバックの清田淳也常務執行役員、アルバック・クライオ株式会社の斎藤政通参事、株式会社イーツリーズ・ジャパンの三好健文取締役、キュエル株式会社の伊藤陽介代表取締役、株式会社QunaSysの楊天任CTO、株式会社セックの内田諒主任、TISの高宮安仁テクニカルエキスパート、富士通株式会社量子研究所の佐藤信太郎所長らの共同研究グループにより開発されたものです。
本研究では、希釈冷凍機※2、制御装置※3、超伝導量子ビットチップ※4、量子クラウドソフト※5などの主要パーツやソフトウェアが全て日本製となる「純国産」超伝導量子コンピュータシステムの開発に成功しました。これにより、日本が量子コンピュータを自製する技術を全て保持し、それらをシステムとして統合できることが示されました。量子コンピュータは新素材、新薬の発見、最適化問題など、地球規模での環境負荷の低減に大きく貢献する可能性を秘めています。また機械学習など、私たちの身近な生活に役立つものもあり、本研究成果はこれらの新しい道を切り拓く一歩であると考えています。

また8月14日~8月20日に大阪・関西万博にて開催される企画展「エンタングル・モーメント―[量子・海・宇宙]×芸術」では、純国産超伝導量子コンピュータ機のパーツを展示します。この展示では、会場内に設置した端末を通じて、来場者が本システムにクラウド経由で接続し、簡単な量子プログラムを実行することで、量子コンピュータを体験いただく予定です。量子もつれ※6などの量子技術を、専門知識の有無を問わず幅広い層の方々に楽しんでいただける場として企画しています。
大阪・関西万博企画展
「エンタングル・モーメント– [量子・海・宇宙]×芸術」と大阪大学の展示について
企画展「エンタングル・モーメント – [量子・海・宇宙]×芸術」は、8月14日~8月20日に大阪・関西万博EXPOメッセ「WASSE」にて開催される期間限定の特別企画です。2025年の「国際量子科学技術年※7」宣言を記念して開催されるもので、量子のミクロの世界、生命を育む海洋と地球、広大な宇宙という3つのテーマを、科学・技術・芸術のコラボレーションを通じて多くの方に体感していただく企画です。
純国産機では、来場者に量子コンピュータの操作法や仕組みを学んでいただくことができます。会場に置かれた通常のiPadから、来場者が量子コンピュータにアクセスし命令を送ると、その命令はオープンソースソフトウェアである量子クラウドソフトOQTOPUS※5で変換、インターネットを伝って大阪大学へと送られ、それに基づいて制御装置から制御信号が生成されます。信号がiPadから大阪大学へと冷凍機の中を走り、量子ビットへと到達する様子をわかりやすく紹介します。
ほかにも、「量子オンラインアプリ体験」として、量子理論学習アプリと純国産量子コンピュータをオンラインで接続し、アプリを通じて量子コンピュータを体験いただけます。本アプリは、量子コンピュータの命令である「量子ゲート」をいかに上手に、早く消すかを競いながら、量子理論を楽しく学習できるアプリです。量子理論を知らない方でもお楽しみいただけます。また、量子コンピュータをオンラインで接続することにより、リアルタイムで発生する乱数を活用したQPU(Quantum Processing Unit)プレイヤーとの対戦プレイを体験いただけます。
純国産機の開発のベースとなった「3号機」※8も万博会場からの操作を行い、量子ビットが最大にもつれた「エンタングル・モーメント」を実現します。8月15日には来場者のスマホから3号機にアクセスし量子もつれ状態(エンタングル状態)を作るステージ企画も行います。多摩美術大学情報デザイン学科 久保田晃弘教授とのコラボレーションにより、実機を用いた量子コンピュータアートの展示と、チップ上での量子もつれ状態を体感できるようなアート企画も行います。多数の量子ビットを量子もつれ状態にさせるには量子コンピュータとしての性能を引き上げていく必要があります。4月から8月にかけてその性能が向上していく様子も合わせて、本企画展にて公開します。
※詳細は以下URLをご参照ください
https://www.qst.go.jp/site/entangle-moment/
研究内容の詳細について
研究内容の詳細や成果は、大阪大学の発表内容をご確認ください。
https://qiqb.osaka-u.ac.jp/newstopics/pr20250728
※1 量子コンピュータ
量子力学の原理に従って動作する量子ビットを情報の最小単位として計算を行うコンピュータ。従来のコンピュータにはない量子重ね合わせや量子もつれを利用することで、分子中の電子状態などの量子的な振る舞いを効率的にシミュレーションすることや機械学習、素因数分解など、さまざまな問題を高速で解けると期待されている。
※2 希釈冷凍機
質量数が異なる2種類のヘリウム(液体ヘリウム4と液体ヘリウム3)を混合するときに生じる吸熱効果を利用して、10ミリケルビン(約-273℃)まで温度を下げる冷凍機。
※3 制御装置
量子コンピュータは大きく分けて、量子ビットチップ、冷凍機、制御装置、そして、ソフトウェアから構成される。制御装置はソフトウェアからの命令に基づき、量子ビットが理解できる信号に変換する装置を指す。超伝導量子ビットではマイクロ波によって操作・観測されるため、制御装置はマイクロ波信号を処理する装置となる。
※4 超伝導量子ビットチップ
超伝導材料を用いた電子回路上で、ジョセフソン接合というトンネル接合素子を用いて量子ビットを実現する量子コンピュータの方式。量子ビットとは0と1の重ね合わせ状態を許す量子力学に従うビットを意味する。量子ビットの「0と1」を表すエネルギー差のスケールが小さいため、10ミリケルビン(約-273℃)まで冷却して、熱雑音を抑える必要がある。
※5 量子クラウドソフト
量子コンピュータはハードウェアだけでなく、ソフトウェアがないと動かない。ソフトウェアはシステムソフトとアプリケーションソフトに分けられる。さらにシステムソフトは、ユーザーが量子回路を描くための基本ソフト、実験室で制御装置に命令を送るためのソフト、そして量子クラウドソフトがある。量子クラウドソフトはユーザー、クラウド、実験室のバックエンドサーバの間で命令をやり取りし管理するソフトである。大阪大学は量子クラウドソフト「OQTOPUS」をオープンソースソフトウェア(OSS)として開発に成功した。
OSSとは、ソースコードが公開されており、誰でも自由に利用できるソフトウェアのこと。従来コンピュータではLinuxを初めとしてさまざまなOSSが根幹を支えている。ほとんどの量子コンピュータクラウドでは根幹部のコードは公開されていない。OQTOPUSは世界最大規模の量子OSSとなる。
※6 量子もつれ(エンタングル)
量子もつれした状態とは、二つの量子ビット(粒子や光子、超伝導回路などで構成される)のうちの一方の状態を観測した際に、もう片方がその量子ビットの状態と必ず逆の状態が現れるような強く相関した状態のことで、古典力学や古典電磁気学では説明できない状態。
※7 国際量子科学技術年
1925年、ハイゼンベルグが発見した行列形式の量子力学の理論に始まりまとめられた新たな物理学である「量子力学」が誕生してから、今年で100年を迎えた。2024年6月7日、国連は2025年をユネスコの「国際量子科学技術年(IYQ)」とすることを宣言した。阪大QIQBはIYQの日本で最初の公式パートナーに就任している。
※8 3号機
2023年3月27日、理研にて国産超伝導量子コンピュータ初号機が稼働し、同年10月5日に富士通株式会社が理研と共同して2号機の開発に成功、12月22日、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)で3号機が稼働した。
TIS株式会社について(https://www.tis.co.jp/)
TISインテックグループのTISは、金融、産業、公共、流通サービス分野など多様な業種3,000社以上のビジネスパートナーとして、お客さまのあらゆる経営課題に向き合い、「成長戦略を支えるためのIT」を提供しています。50年以上にわたり培ってきた業界知識やIT構築力で、日本・ASEAN地域の社会・お客さまと共創するITサービスを提供し、豊かな社会の実現を目指しています。
TISインテックグループについて
TISインテックグループは、国内外グループ2万人を超える社員が『ITで、社会の願い叶えよう。』を合言葉に、「金融包摂」「都市への集中・地方の衰退」「低・脱炭素化」「健康問題」を中心としたさまざまな社会課題の解決に向けてITサービスを提供しています。デジタル技術を駆使したムーバーとして新たな価値を創造し、人々の幸せと持続可能な豊かな社会の実現に貢献します。
本件に関するお問い合わせ先
報道関係からのお問い合わせ先
TIS株式会社 企画本部 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:pr@tis.co.jp
本取り組みに関するお問い合わせ先
TIS株式会社 テクノロジー&イノベーション本部
戦略技術センター 高宮 安仁
E-mail: qni@ml.tis.co.jp
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