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バーチャル空間での視線の可視化により、偶然の何気ない会話を誘発する技術を開発し検証
― 偶然の出会いや発見を創出するデジタル空間に向けて ―

2023年12月11日

東京都市大学
TIS株式会社
岡山理科大学
工学院大学

東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)、TIS株式会社(東京都新宿区、代表取締役社長:岡本 安史 )、岡山理科大学(岡山県岡山市、学長:平野 博之)、工学院大学(東京都新宿区/八王子市、学長:伊藤 慎一郎)は、バーチャル空間での視線の可視化により、視線の可視化がない場合と比べて3倍以上の確率でコミュニケーションを誘発する技術を開発しました。
偶然出会った人との何気ない交流を指すインフォーマルコミュニケーション(※1)は、しばしば課題解決のヒントやイノベーション創出のきっかけとなるため重要です。しかし、目的が明確な場合が多いデジタル空間でのコミュニケーションが急増した現在、日常生活全体で人々のインフォーマルコミュニケーションの機会が急減しています。本研究は、コミュニケーションの開始時に重要な役割を果たしているとされる視線に着目し、デジタル空間の一つである3次元バーチャル空間において本来見えない視線を可視化することで、インフォーマルコミュニケーションの誘発を試みました。
3種類の視線の可視化手法(矢印、シャボン玉、ミニチュアのアバター)を実装し、この3つの可視化された視線と、可視化されない視線を比較するユーザー実験を行った結果、可視化された視線はいずれも、可視化されない視線よりも偶発的なコミュニケーションを誘発することがわかりました(可視化なし:15.0%、矢印:45.4%、シャボン玉:54.5%、ミニチュアのアバター:47.1%)。例えばバーチャルオフィス、バーチャル展示会、バーチャルイベントなど、バーチャル空間で複数のユーザーが共在する多くの場面に応用でき、インフォーマルコミュニケーションの機会を創出するデジタル空間の実現が期待されます。
今後は、本研究成果の発信やソフトウェアの公開を通じ、各種コミュニケーションサービスへの提案手法の適用や、コミュニケーション支援に関する研究開発の進展に役立つことが期待されます。なお、これらの研究成果は、コンピュータと人間の相互作用に関する科学ジャーナルACM Transactions on Computer-Human Interaction (TOCHI) に早期掲載されました。また、今年開かれた第27回一般社団法人情報処理学会シンポジウム(INTERACTION 2023)では論文賞を受賞しました。

問い合わせ先

東京都市大学 デザイン・データ科学部 デザイン・データ科学科 市野 順子
大学運営課(広報担当) Email:toshidai-pr@tcu.ac.jp

本研究のポイント

  • 3種類の視線の可視化手法(視線の送り手のいる方向を指す矢印Arrow、送り手のいる方から流れてくるシャボン玉Bubble、送り手のミニチュアのアバターMiniavatar)を開発。
  • 3つの可視化手法は、視線を可視化しない場合と比べて偶発的なコミュニケーションを有意に誘発すること、特にBubbleはArrowよりも会話を伴う偶発的なコミュニケーションを有意に誘発することをユーザー実験により実証。
  • サクラ(偽参加者)を用いた、他者との交流の意思を必ずしも持たない状況下での偶発的なコミュニケーションの客観的かつ定量的評価手法を構築。

概要

東京都市大学、TIS株式会社、岡山理科大学、工学院大学は、東京都市大学未来都市研究機構 ソーシャルVR研究ユニット(※2)における共同研究において、バーチャル空間での視線の可視化によりインフォーマルコミュニケーションを誘発する技術を開発し、視線の可視化がない場合と比べて3倍以上の確率でコミュニケーションを誘発することを明らかにしました。
本研究では、2種類の注視行動(一方がもう一方を見つめる一方注視、2人が同じ対象を見つめる共同注視)を可視化の対象とし(図1)、一方注視と共同注視のそれぞれに対して、3つの視線の可視化手法(視線の受け手の顔の前で視線の送り手のいる方向を指す矢印Arrow、送り手から受け手に向かって流れてくるシャボン玉Bubble、受け手の顔の前に送り手のミニチュアのアバターが現れて手をふるMiniavatar)を設計・開発しました(図2、図3、図4)。
一般から募集した20~49歳の男女96人の参加者に、上述した3つの可視化あり条件(Arrow, Bubble, Miniavatar)に可視化なし条件(Control)を加えた、4つの条件のいずれか一つを用いて、サクラ(偽参加者)と一緒にバーチャル空間を共有してもらう実験を行いました。サクラ(視線の送り手)から参加者(視線の受け手)に偶然を装って視線を送ったときの、参加者の行動と心理を検証しました。
参加者の行動を検証するために、サクラからの視線を受けた後サクラに対して何らか(言語・非言語・一瞥)の反応をした割合(コミュニケーション誘発率)を求めました。その結果、可視化あり条件はいずれも可視化なし条件よりも、参加者はサクラに3倍以上の高い確率で反応しました(図5)。さらにその反応の内訳を調べてみると、3つの可視化あり条件の中では、一方注視ではBubbleが最も有効で、参加者は言語的(例:挨拶)あるいは非言語的(例:会釈)に反応していることがわかりました(図6)。
参加者の心理を検証するために、参加者に視線を受けたときの印象についてのアンケートに回答してもらいました。その結果、参加者は心理的にも肯定的に反応していることがわかりました(図7)。

図1

図1:可視化の対象とした2種類の注視行動

図2

図2:3種類の視線の可視化手法

図3

図3:視線の可視化手法Bubble(シャボン玉が流れてきた方向、つまり、視線の送り手のいる方向に顔を向けている視線の受け手の様子。図上では、見やすくするために、シャボン玉が青い線で囲まれている。)

図4

図4:視線の可視化手法Miniavatar(視線の受け手の一人称視点の画像。視線の送り手のアバターのミニチュアのアバターが、受け手の方を見て、笑顔で手を振っている。)

図5

図5:コミュニケーション誘発率

図6
図6

図6:視線を受けたときの参加者の言語・非言語・一瞥反応率

図7
図7

図7:視線を受けたときの参加者の主観評価(いずれも値が高い方がポジティブ)

研究成果に至った背景

課題解決のヒントやイノベーションの創出に不可欠とされるセレンディピティ(※3)は、しばしば、インフォーマルコミュニケーションから生じます。デジタル空間におけるセレンディピティの欠如は、以前から問題視されていましたが、コロナ禍を経てデジタル空間でのコミュニケーションが急増した結果、深刻さを増しました。この問題が解決されなければ、特定の考え方や価値観が増幅される閉鎖的な状況を招き、社会や文化の分断や衰退につながる可能性もあります。したがって、これからのデジタル空間にはインフォーマルコミュニケーションを誘発する仕組みが必要です。
実空間でのインフォーマルコミュニケーションの開始に至る前の人々のインタラクションは、非言語情報の中でも特に視線が重要な役割を果たすことがわかっています。また、人間の目は身体的負担が少なく高速に動き、離れたところからでも利用可能なため、興味を示すために人間は自然に視線を使用します。よってデジタル空間で視線をユーザーにうまく提示できれば、インフォーマルコミュニケーションを誘発できる可能性があります。この可能性を探るために、デジタル空間の一つである3次元バーチャル空間で、アバター(ユーザー)間のインフォーマルコミュニケーションを誘発するための視線の可視化手法を開発・検証しました。

研究成果の社会的貢献および今後の展開

今後、本研究成果の発信に加え、開発した可視化手法が組み込まれたソーシャルVRプラットフォームを開発し、オープンソースソフトウェア(※4)として公開する予定です。これにより、バーチャルオフィス、バーチャル展示会、バーチャルイベント、マルチプレイヤーゲーム、ARコミュニケーションなどの各種VR・ARコミュニケーションサービスへの可視化手法の適用や、企業・研究機関・大学などでのVR・ARコミュニケーション支援に関する研究開発の進展が期待されます。

用語解説

※1 インフォーマルコミュニケーション:
日程、参加者、議題、目標などが決められていない、偶発的に発生する知人あるいは見知らぬ人との何気ない交流。

※2 東京都市大学 未来都市研究機構 ソーシャルVR研究ユニット:
東京都市大学(市野 順子教授、宮地 英生教授、岡部 大介教授)、TIS(井出 将弘セクションチーフ)、岡山理科大学(横山 ひとみ准教授)、工学院大学(淺野 裕俊准教授)をユニットメンバーとして、コミュニケーションインフラとしてのバーチャル環境の基礎的要件の包括的解明に向けた共同研究を行った。

※3 セレンディピティ:
偶然の幸運な出合いによって予想外のものを発見すること(偶有性)、または発見する能力のこと(遇察力)。

※4 オープンソースソフトウェア(Open Source Software, OSS):
ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを無償で公開し、誰でも自由にそのソフトウェアを使用・複製・改良・再配布できるようにすること。または、その考えに基づいて公開されたソフトウェアのこと。

補足

本研究成果は、以下の論文誌に早期掲載されました。
Junko Ichino, Masahiro Ide, Takehito Yoshiki, Hitomi Yokoyama, Hirotoshi Asano, Hideo Miyachi, and Daisuke Okabe; How Gaze Visualization Facilitates Initiation of Informal Communication in 3D Virtual Spaces. ACM Transactions on Computer-Human Interaction (TOCHI); August 2023; Just Accepted.
https://doi.org/10.1145/3617368
本研究成果は、以下の国内会議で発表し、論文賞を受賞しました。
井出将弘, 市野順子, 芳木武仁, 横山ひとみ, 淺野裕俊, 宮地英生, 岡部大介; 3次元バーチャル空間におけるインフォーマルな会話の開始を促すためのゲイズキューの可視化手法; 第27回一般社団法人情報処理学会シンポジウム(INTERACTION 2023); March 2023; INT23001: 1–10.
https://www.interaction-ipsj.org/2023/award

共同研究者

東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 ソーシャルVR研究ユニット
東京都市大学 デザイン・データ科学部 市野 順子教授(ユニット長)
東京都市大学 メディア情報学部 宮地 英生教授、岡部 大介教授
TIS株式会社 戦略技術センター 井出 将弘セクションチーフ
岡山理科大学 経営学部 横山 ひとみ准教授
工学院大学 情報学部 淺野 裕俊准教授

各機関の問い合わせ先

TIS株式会社

報道関係からのお問合わせ先

企画本部 コーポレートコミュニケーション部 浄土寺/髙橋/三輪
TEL:050-1702-4071 E-mail:tis_pr@ml.tis.co.jp

XR関連の研究開発に関するお問い合わせ先

テクノロジー&イノベーション本部 戦略技術センター 担当:倉本/井出
E-mail:info-stc@ml.tis.co.jp

岡山理科大学

企画部企画広報課
TEL:086-256-8508 E-mail:kikaku-koho@ous.ac.jp

工学院大学

総合企画部広報課
TEL:03-3340-1498 E-mail:gakuen_koho@sc.kogakuin.ac.jp

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更新日時:2024年4月1日 13時23分