コーポレートガバナンス座談会

写真左から順に、桑野 徹:取締役会長(取締役会議長)、水越 尚子:社外取締役、土屋 文男:社外取締役
モニタリング型取締役会への移行

桑野 :コーポレートガバナンスの強化は永遠のテーマです。2024年3月期はグループビジョン2032(GV2032)や中期経営計画(2024-2026)の策定など重要テーマの審議に集中し、取締役会のあり方をマネジメント型からモニタリング型への移行に向けて取り組んだ1年でした。

土屋 :取締役会では、GV2032や中期経営計画など経営の基本方針についての議論に多くの時間を割くなど、モニタリング型への移行に向けて良い形でスタートできたと思います。取締役会のモニタリング機能を高めるということは、これまでよりも大胆に執行側へ裁量を任せることになります。

水越 :逆に言うとモニタリングが可能なように審議事項では中長期の方針に結び付いた明確なゴールと遂行のタイムラインをあらかじめしっかり示されることが重要ですね。また、指名・報酬委員会では、2024年3月期は役員報酬制度の改定に向けた議論を行いましたが、2025年3月期からはサクセッションプランや、あるべき経営マネジメントチームについてしっかりと議論を深めていきたいと思います。
桑野 :取締役会の機能高度化には、ワンチームとして、取締役会メンバーのみならずグループ全体の執行役員や現場マネージャーなど執行側が高い視座で的確な執行を行うことが不可欠です。GV2032で掲げた未来を実現するために社員を“活気づける”リーダーシップがあるリーダー、さらなる人材の多様化も必要ですね。
土屋 :会長がワンチームと言われましたが、当社グループはグループ基本理念「OUR PHILOSOPHY」の浸透活動を続けており、グループ全体での意識統一につながる非常に重要な取り組みだと思います。グループ会社も増え、いろいろな生い立ちや文化の会社がある中、グループ全体を同じ方向性に導く上では、取締役会でもグループ全体でのリスクマネジメントにも目を向ける必要があると認識しています。
新グループビジョン、新中期経営計画について
土屋 :前中期経営計画は目標を1年前倒しで達成するなど、素晴らしい成果を挙げました。一方で、株主・投資家は当社グループの足元の業績をある意味“踊り場”と見ており、次の成長戦略の実効性を見極めている状況だと感じます。私自身もGV2032は非常に野心的なビジョンと感じていますが、絵にかいた餅ではなく株主・投資家等の期待に応えるためにもぜひ達成しなければなりません。そのためには、オファリングサービスの収益化とグローバル事業の成長をどう実現するかがポイントと見ています。
水越 :取締役会ではオファリングサービスの収益性向上や社会課題解決につながるサービスの創出等、成長を実現するための議論を重ねました。これらの戦略は、基本戦略に有機的に結びついており、バラバラに実施しても結果は出ません。ポイントは選択と集中であり、当社グループの競争優位性のあるところにリソースを集中して成長戦略を確実に遂行していく必要があります。さらに重要なのは、当社グループがイノベーティブで構想力のある共創パートナーとして、常にお客様や戦略提携先に信頼されることであり、そういった成長戦略を牽引する人材の確保や活躍できる環境の整備も重要なテーマとして時間を割いて議論できたと思います。
桑野 :新しい挑戦を通じてさらなる成長をどう実現していくかは、水越取締役が指摘されたように人材が重要なカギを握ります。GV2032で目指す事業ポートフォリオでは、これまで我々が得意としてきたお客様のニーズに応える受託型システム開発のような並走型ビジネスに加えて、新しいビジネスを創ったり、お客様の一歩先を行くサービス型ビジネスのような自走型ビジネスの成長が不可欠です。コンサルタント等の高度人材の育成や採用を通して、人材の多様化を進めていますが、まだまだ足りません。
水越 :一般的に考えてみても、システムを開発する会社と製品(サービス)を売る会社では求められる人材や組織が異なります。当社グループも、並走型ビジネスと自走型ビジネスの両方を成長させるには人材構成が重要です。リクルーティングやM&Aに加えて、国内外のイノベーティブな企業では、どのような組織・環境で優れた人材が力を発揮しているのかを分析することも一案だと思います。優秀な人材には報酬に加えて働きがいが非常に重要で、そういった人材が働きやすく十分能力を発揮できる環境整備が組織の効率性につながり、今回の中期経営計画で重要指標に加えた一人当たり(PH)営業利益の向上にもつながると思います。
土屋 :PH営業利益においてグループ全体の平均値を上げるためには、個々のビジネスごとにどうPH営業利益を伸ばすかが重要ですね。また、優れた人材が時間を無駄にしないためにも不採算案件の抑制も重要です。私の経験では経営に問題が生じる際にはリーダーの本来なすべきことが十分になされていないという“不作為”があると思っています。当社グループでは、不採算案件の抑制のために様々な取り組みを行っていますが、私からはリーダーの役割認識と“不作為”撲滅の必要について、いろいろな場で強調して申し上げています。
株式市場からの期待と評価
土屋 :先日、機関投資家と対話する機会がありました。そこで感じたのは当社グループのこれまでの着実な成長により、期待レベルも一段上がっているということです。当社グループの情報開示はかなり充実していると評価もいただいていますが、社外取締役として投資家との対話の機会を持ったことで当社に対する理解はさらに高まったと思っています。適切な情報発信と対話を重ねることが、当社グループの成長戦略に対する株主・投資家の理解を促進し、適正な評価につながると考えています。
水越 :当社グループの長期的な株主でいていただくには持続的な成長を信じていただかなければなりません。積極的にチャレンジしていく攻めの姿勢と不採算案件等の課題への迅速な対処、両面をタイムリーに説明し、将来の成長と収益性を株主に“腹落ち”していただく必要があります。そうすれば、当社グループに対する将来の期待が株式市場の評価に織り込まれていくのだと思います。今のところ、大型の開発案件がピークアウトする中で、次の成長に向けた確かな道のりを進んでいることをタイムリーに伝える、その点がまだ弱いかもしれません。また、取締役会においても、成長戦略が合理的なものかどうかの議論や進捗状況・課題のモニタリングをしっかりと実施していく必要があります。
桑野 :お二人からの指摘どおり、株主・投資家等からの信頼と評価を得るためにも、我々からも執行側に成長への道のりをしっかり説明するよう働きかける必要があると思っています。執行と監督をきちんと分けるために、執行に踏み込むことはありませんが、要望があれば個別の相談に応じ、執行経験者としての経験に基づいて率直に自分の意見やアドバイスを伝えています。例えば、グループ各社の取り組みを連携させながら当社グループの独自性を出す、つまり全体最適が実現しているかといった点を指摘しています。
多様性ある取締役会を目指す
水越 :私は社外取締役として、株主を含む多様なステークホルダーから見て、取締役会での審議内容が納得できるものであるよう心掛けています。社外役員としての経験や期待されているスキルを意識して、外部環境を勘案して、迅速に動くべきではないかという意見を述べたり、タイムラインが明確なコミットメントかを確認しつつ、執行側の適切かつ思い切ったチャレンジを後押していきたいです。
土屋 :2024年3月期は冒頭で話に上がった取締役会のアジェンダ設定だけでなく、取締役のバックグラウンドやスキルに応じて期待される役割・視点等を定義し、取締役間の共通認識を深めるなど、より実効性のある取締役会の実現につながる取り組みができました。TISの取締役会や指名・報酬委員会の素晴らしい点はフランクに議論できる文化が醸成されているところです。株主から負託を受けている社外取締役として、引き続き忖度なく議論を交わしていきたいですね。
桑野 :当社グループはオープンマインドを非常に重視しています。今日も率直に課題を述べましたが、課題は将来に向けた宝の山であるからこそです。次の課題が明確であれば、1つひとつクリアしていけばよいわけですから。今後さらに取締役会メンバーの多様性を重視しながら議論を深めていきたいと思います。
水越 :多様性の観点では、須永社外取締役が就任されて、女性取締役が2名となりました。監査役にも女性が増えています。女性活躍推進のテーマに限らず、様々な立場や専門性を活かして社外の視点を持ち込み、より深い議論ができることを期待しています。私自身は知的財産(知財)についてアドバイスさせていただき、2023年4月における法務・知的財産部としての改組を後押ししました。今回の中期経営計画にも知財戦略が策定されましたが、現在、事業に結びついた知財の取得と活用が進んできていると感じています。
土屋 :水越取締役は取締役会でも法律の観点から非常に有益な発言をされていますし、当社グループの従業員向け知財セミナーを開催されるなど、取締役会以外の場でも専門性を発揮されています。私は会社経営の経験に基づく発言が多いわけですが、新任の須永社外取締役は国内外のモバイル通信技術を専門とされるなど、着実に社外取締役メンバーのバックグラウンドも多様化され、より多様な観点での監督が可能になったと思います。
桑野 :監督側だけでなく、執行側の多様性についても外国籍や社外を含めて一層高める必要もありますね。執行と監督が両輪で機能して初めて当社グループの持続的な成長と企業価値最大化の実現につながると思います。そのためにも、引き続きオープンマインドで執行側と監督側、社内と社外において同じ一つのビジョンと目標達成を目指して活発な議論をしていきましょう。
2024年9月